断酒学校

2/4
前へ
/28ページ
次へ
夕食を前に、五十嵐さんと二人で話していた。 「光浦さんはアルコール依存症ですか」 「実はそうなんです、肝臓もスカスカで」 「断酒学校、馬鹿みたいでしょ」五十嵐さんは重たく同情を込めて言った。別にそうでもないけどなあ。 「いやあ、結構疲れますね」 「テキスト覗いたら、普通のことしか書いてなくて、つまんないことやってるなと思いましたけどね」 「五十嵐さんはアルコール依存症じゃないんですね」 「ヤク中ですね」  ヤク中と聞くと、覚醒剤とかをイメージするかもしれないが、普通に薬依存症のことである。でも五十嵐さんはその筋の人に見えなくもない。 「薬、何種類飲んでるんですか」 「さあ。数えないですね」 「へえ。」数えられないくらいなんだ。 「睡眠薬のめやすが貼ってあるじゃないですか」  ナースステーションの近辺にある掲示板に睡眠薬の効能が書いて貼ってある。四種類あって、名前は忘れたけど、持続時間が上から一時間、二時間、七・八時間、二十時間……。飲んだところで多分効かないと思う。 「一番下の薬を飲んでるんですか」 「いや、あそこにない薬があるんです」 「えっ、そうですか」 「牛を寝かせる薬を飲んでるんです」 「牛」 「しかも、一回四錠」 「でも、夜中うろうろしてますよね」 「時間差で効きますね。夜寝れなくても昼にくたびれたり」 「ヤク中ですね……」  大前提、精神病院にいるからにはみんな頭がおかしい。できれば僕は隠し通していきたい。  夕食中、変なおじさんの方を観察していたら、今回も変なことをしていた。食器を片付けた後、他の人が使用して片付けた茶碗を持って、給湯室に向かい、お茶を汲んで飲んでいた。感染症について何も恐怖がないのだろうか。  夕食を済ませて、食堂に居続けていると、なんとなく人が中央に集まってきた。僕の近くで会合らしいことをしているので覗いてみる。女の人と目が合った。 「光浦さんでしたっけ」 「はい、そうです」 「わたし、佐藤です、よろしくお願いします」 「はあ、よろしくお願いします」  目の前には短大生みたいなキャピキャピした女の子がいる。肉付きがよくて、体格的に言えば柔道選手みたい。髪が黒々としてテカテカしている。でも顔の肝斑にはおおきな染みがある。……何歳なんだろう? さすがに年齢聞くの失礼か? 「光浦さんは何歳なの」 「え……ええと、もうすぐ五十歳ですね」 「へーえ」 「佐藤さんは?」 「何歳に見える?」
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加