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夕食を前に、五十嵐さんと二人で話していた。
「光浦さんはアルコール依存症ですか」
「実はそうなんです、肝臓もスカスカで」
「断酒学校、馬鹿みたいでしょ」五十嵐さんは重たく同情を込めて言った。別にそうでもないけどなあ。
「いやあ、結構疲れますね」
「テキスト覗いたら、普通のことしか書いてなくて、つまんないことやってるなと思いましたけどね」
「五十嵐さんはアルコール依存症じゃないんですね」
「ヤク中ですね」
ヤク中と聞くと、覚醒剤とかをイメージするかもしれないが、普通に薬依存症のことである。でも五十嵐さんはその筋の人に見えなくもない。
「薬、何種類飲んでるんですか」
「さあ。数えないですね」
「へえ。」数えられないくらいなんだ。
「睡眠薬のめやすが貼ってあるじゃないですか」
ナースステーションの近辺にある掲示板に睡眠薬の効能が書いて貼ってある。四種類あって、名前は忘れたけど、持続時間が上から一時間、二時間、七・八時間、二十時間……。飲んだところで多分効かないと思う。
「一番下の薬を飲んでるんですか」
「いや、あそこにない薬があるんです」
「えっ、そうですか」
「牛を寝かせる薬を飲んでるんです」
「牛」
「しかも、一回四錠」
「でも、夜中うろうろしてますよね」
「時間差で効きますね。夜寝れなくても昼にくたびれたり」
「ヤク中ですね……」
大前提、精神病院にいるからにはみんな頭がおかしい。できれば僕は隠し通していきたい。
夕食中、変なおじさんの方を観察していたら、今回も変なことをしていた。食器を片付けた後、他の人が使用して片付けた茶碗を持って、給湯室に向かい、お茶を汲んで飲んでいた。感染症について何も恐怖がないのだろうか。
夕食を済ませて、食堂に居続けていると、なんとなく人が中央に集まってきた。僕の近くで会合らしいことをしているので覗いてみる。女の人と目が合った。
「光浦さんでしたっけ」
「はい、そうです」
「わたし、佐藤です、よろしくお願いします」
「はあ、よろしくお願いします」
目の前には短大生みたいなキャピキャピした女の子がいる。肉付きがよくて、体格的に言えば柔道選手みたい。髪が黒々としてテカテカしている。でも顔の肝斑にはおおきな染みがある。……何歳なんだろう? さすがに年齢聞くの失礼か?
「光浦さんは何歳なの」
「え……ええと、もうすぐ五十歳ですね」
「へーえ」
「佐藤さんは?」
「何歳に見える?」
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