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トリッキーな質問だ。本当に、何歳か全然読めない。二十代だとは思うけど……。
「えー。えーと、二十五歳?」
「ブー。三十九」
複雑な気持ちになる解答だ。向こうも複雑な気持ちにならないといいな。
「光浦さんは野球は見るかい?」
精神病院にしては人のよさそうなおじいさんだった。松岡さんと言う。断酒学校にいたのでアルコール依存症なんだと思う。
「いや、僕は興味ないですね」
「そっかー。残念だな」
「ここではいつも野球が点いてるんですか」
「いや。見たいけど他の人の見たいやつが点いてるよ。僕らは作業療法室のテレビで観てる」
「そうなんだ。ここはスポーツよりバラエティーが好きなんですかね」
「うーん。相撲も観るし、必殺仕事人も観るよ。バラエティーを観るというよりはたまたま点いてたやつを観る感じかな。病院は年寄りが多いからね」
それから松岡さんと、佐藤さんと、野間さんと僕でババ抜きをした。特に盛り上がる訳でもなく時間が過ぎ、就寝時間になって次々人が部屋に戻った。
トイレに行くと、近くで話し声がした。
「208室の勝田さんいるでしょ」
「ああ。オムツの人」
「そう。オムツをね、ギリギリまで変えないんだよね」
「ああ。だからベッドがたまに汚いんだ」
「だからオムツ変えましょうと言っても、すぐ怒るんだよね」
「困ったなあ」
「困るよね」
ナース同士が悪口を言っていた。リーゼントと、クリスチャンが……。いいのか? 僕に聞こえたけど。
部屋に戻って、ベッドでごろごろしていてもなかなか朝が来ない。これをここで何回繰り返していくのだろう。眠れない夜は死ぬまでずっと続くのだろうか。しばらくこんな風に生活を送り、病院生活に慣れていった。
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