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城谷さん
あくる日、ソーシャルワーカーと面談した。僕がなぜ精神病院に入ったのかを考えると、生活態度を変えるためなのもある。こうしてソーシャルワーカーと話しているといかに国が僕を生かしておきたいのかがわかる。僕みたいな能無しは、酒に溺れ四面楚歌になり野垂れ死ぬのが自然淘汰としてふさわしいけれど、一度生活保護を貰ったからには最後まで生きていかないといけない。しかし、生きるために我慢しなければならないことばかり。お菓子を買いすぎるなと言われた。入金された金額ギリギリで買い物をして結果オーバーし、母親に不足分入金をお願いしたら怒られた。我慢ってどうやったらできるんだ。怒られることはできるけど、怒られても我慢が出来ない。途方にくれるのは数分で終わり、次の断酒学校に向けて写経していた。
そこに、白い顔が窓を閉めに来た。この病院の窓はスイッチ一つで開けられるが、歯車を110回回さないと窓が閉じられない。
「あれっ、なかなか閉まらないですね」
「それ、110回回さないと閉まらないんだよ」
「へぇーっ、そうなんですね」
「知らないんだ」
「わたし、ここで働いて一か月なんで。光浦さんとほぼ同時期に入ったんです」
「へえ。そうなんだ」
それから少し白い顔と話した。名札を見ると「城谷」と書いてあった。シーツ交換が大変とか、風呂場の掃除が大変とか、トイレ掃除の回数が多くて大変とか、言ってたけど。それを話してくれるのがなんだかうれしいような照れるような。多分白い顔は、この病院の中で一番年下かもしれない、と聞いたことがある。若い子と話せてうれしい。
「旦那さんはいるの?」
「えーっ。いないですよ」
「彼氏はいる?」
「それ、セクハラですからね。いませんけど……」
「へえ。本当」
「他の人には言わないでくださいね。患者さんってすぐ皆で情報共有するでしょ」
「言わないよ」
「本当ですか」
「うん」
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