入院前夜

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高校に行く意味がわからなかった。勉強は嫌いで、勉強する理由となる社会の仕組みも嫌いだった。中卒で働くことにした。中学校を卒業したその日に、僕は香苗と初めてセックスをした。その日は寒かった。僕の部屋は暖房が壊れてて、香苗は痛そうだった。 香苗は普通に高校へ進学して、僕は地元の居酒屋で働いていた。客の吐瀉物や残飯を黙々と廃棄していた。香苗とは毎週日曜日に待ち合わせして、色んな場所でお金を使った。働く居酒屋は何回か変えたことがあるけど、三年間何もなく過ぎていった。 香苗が高校を卒業してから結婚した。結婚して間もなく、浮気した。実は似たようなことは今までにあったけれど、しっかりとした浮気で、しっかりバレたのは後にも先にもこれくらい。バイトの女の子に手を出していた。今となってはその娘がどんな顔だかもわからない。向こうもこっちもワンナイトを割り切っていた。でも何回か続いていたことがバレてしっかり怒られた。怒られて、うまく立ち回れなかった。言い返すというよりは、自分の言葉で事実をしっかりと語ることができなかった。まあ事実、浮気したのだが。今でも香苗に対してどう言えばあの時落ち着いたのかわからない。 自分で言うのもなんだけど、かねてから香苗は僕と結婚して失敗したと思っていた。なんとなく流れるように僕と付き合って、別れることをろくに考えず当時浮気が発覚して、結果完全にほとぼりが冷めたらしい。過去に他の男から交際を申し込まれたこともあって、僕と付き合う良さをなかなか洗い出せずに結婚したのを後悔している旨を、離婚届を手渡しながら言われた。以来、思い出す時に香苗の顔がその当時から更新されない。 手相なんて当たっているのか疑問で、昔冷やかしに占ってもらった手相によれば運命の人は香苗かあの人妻しかいないことになる。しかし他にも好きな人はできたし彼女もいた。あれから職場を転々として、引っ越しもして、年を取った。段々働ける職場が過酷なものしかなくなって、建設業の下っ端をやることになって三十代から四十代を費やした。ものぐさなやつは能無しなので、結局やくざな役割にまわされる。それでもしたくないことをするよりはマシだった。飲食業から建設業へ転職してから、本当にお酒が美味しくなった。フィリピンパブだのキャバクラだの行って、バカみたいに飲んだ。今思うとその時には肝臓を壊していた。それでも飲んで、働いた。人妻と出会って、飲んで吐いた。そして入院した。
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