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現在も入院しながらそんな場合じゃないけど、やっぱり女と遊びたい。酒はもう飲まなくていい。女の子には僕について意見を聞きたい。誰でもいい。クソアマじゃなければ。吐いてる僕に酒を注いでくるようなクソアマじゃなければ。できれば若い方が良いけれど。
テレビから目に焼き付けた女性芸能人が次々フラッシュバックする。あの女は腰が脆そう。あの子は眼が濡れている。あの女はマグロって週刊誌で見た。あの人は脱いだら凄いって噂。香苗は下半身デブだった。人妻はいつまでも潤滑していた。不倫相手の顔がフラッシュバックする。やっぱりどんな顔だったかわからない。浮気は楽しかった。それ以上の感想があんまり浮かばない。当時は家に帰ると申し訳ない気持ちでいっぱいになるも、落差に耐えている自分に驚くし、なにより皆やってた。自分は人より二倍人を喜ばせているのかもしれない、という手応えがあって、完全に浮かれていた。不倫相手はいつの間にか職場からいなくなって、本当手軽な人だった。
歴代の彼女が浮かぶ。クリスマスにはショートケーキを身体に塗りたくってセックスしたりした。意味がわからないけど、高揚感が楽しかった。瓶でお酒を飲んで、一日中身体をまさぐりあって、ずっと脳味噌がふやけていた。そんな時代が終わろうとしている。僕はもうすぐ死ぬだろう。っていうか、死ぬくらいしかやることがない! 死ぬこと以外に僕を掻き立てるような出来事はもうないだろう。それか、誰かが世界を滅亡させたらどうにかしてやる気が出るかもしれない。絶望と堕落こそ蜜の味だから。……そういや、なんか頭が痛い。表面がヒリヒリする。テレビで速報が。「雨に硫酸が混じってる。かなり降るので気をつけて」
硫酸入りの雨が降っていく。街を行き交う人々は雨に打たれて溶けていく。福岡天神の開発はストップした。テレビでは薬院大通のバカ高いパフェを映している。テレビの中もテレビ自体も水と油に分離して流れていく。太宰府天満宮のデートの思い出も思い出せない。梅酒を浴びるほど飲んだから。違う。僕が硫酸で溶けていくから。
移動しながら爛れる歩行者はぼたぼたと音を立てて肉と骨化する。山茶花みたいな音をしてこぼれていく。お肉のクリームの向こうには剥き出しになった眼球があり、実はそれすらも肉であった。僕の視界は淡く滲んでいく。眼鏡をはずした世界は、座高が低くなる世界は、硫酸が目に染みて見る場合じゃなかった。しかしたしかに街があった。やがてコンクリートも酸に喰われて僕たちの肉のスープに溶け込んでいく。世界滅亡作戦は大成功だった。
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