入院初期

1/4
前へ
/28ページ
次へ

入院初期

起きてまずフロアを案内される。措置室と4人の患者が寝る大部屋が何個もある。あと洗濯室、診察室、面談室、風呂場。それ以外には食堂のロビーがあって、そこにはテレビがある。チャンネルを変えたい時、予約したい時はこの要項に従ってください、と言われた。見てみると、テレビを予約する時は番組開始時刻の一時間前までと決まっている。チャンネルを変えるにはかならず周囲に同意を取ってからお願いします、その一文が一番大きく強調されていた。爪切りは貸出される。しかし検温後から午後四時まで。毎朝九時に検温があるが、診察の希望はその時看護師に伝えること。家族からのお菓子などの持ち込みは一回職員によって検査するとのこと。髭剃りは持ち込み可能だが、剃刀は没収するとのこと。お風呂は週に二回。月曜日と木曜日。職員に呼ばれたら入ること。できれば室内では靴下を履いた方が後々いいとのこと。水虫対策かな。平日には日替わりで午前中と午後に一コマずつ、作業療法と言って専用の部屋でワークがあるとのこと。前に入院したからわかるけど、これに参加したほうが気を揉まずに済む。暇はイライラを生む。やらないよりはやったほうが、長い一日の時間は確実に過ぎてくれる。たとえどんなに自分の能力を馬鹿にしたような作業が待ち受けていても、やらないよりはやったほうがいい。作業療法室にもテレビがある。 あとは、一か月に一回採血をします、程度だ。  部屋に戻って、寝転んだ。止まった時間が削られていくように、一秒ずつ流れる。本当に暇だ。窓から差す西日は白く眩しい。曇る空をバックに、山茶花がぎっちり植わっていた。花が咲いたり、腐ったり、つぼみの段階から落ちてたり。さまざまな思いが浮かんでは消えていった。  夕食を食べる。病院食はいかにも保存料の味がするものだが、ここの病院食は比較的おいしい。歯磨きをして、ベッドでごろごろして、やっと5時になるなあ、と思ってた頃。遠くから「負けないで」が聴こえる。大部屋と食堂までの通路は寝る後に施錠され、起きる前に開錠されるが、この病院では朝5時に開錠するようだ。食堂に向かうと、女の人が明るく歌っていた。 「大丈夫ですか」 「え、何がでしょうか」
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加