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「あ、いや。お目当ての人が載ってないもんで」
「モデルなんて誰も顔が一緒じゃないですか」
「あ。そっか。女性誌ってモデルしかいないのか」
「他に誰が載りますかね」
「えー。あー、アイドルとか。僕アイドル好きなんです」
「へえ。ちなみに誰が?」
「神山遥子なんですけど……」
「僕もです」
「ほんとですか」
「神山遥子が出てる雑誌、僕全部切り取りましたよ」
「あら。そうなんですか」
「あとで見せましょう。僕、光浦さんと部屋一緒ですよ」
「ああ。五十嵐さん、でしたっけ」
「そうです、そうです。よろしくお願いします」
食事になった。五十嵐さんは食事の席も僕の隣だった。なんだかほっとした。
お茶を汲もうとしたら、前の人がじっとしているので、様子を窺うと、プッシュ式石鹸を給湯器にセットして、お湯を流し続けてあっためていた。何の意味があるのだろうか。見かねた他の患者の女の人が怒鳴って止めさせた。その後も志村けんに似たその変なおじさんは、朝食で出たおにぎりを牛乳パックに詰めて、みかんの皮を入れて、パックを閉じて遊んでいた。それを服薬時に看護師に報告すると、「いつかは私たちもああなるかもしれないんで……」という回答だった。それにしても変なおじさんだ。
食事を済ませ、部屋に戻り、九時の検温を待つ。五十嵐さんからこの病院についてさらに詳しく教えてもらった。青い服は准看護師、黒い線がついてたら看護師。検温に来るのは看護師のうち大体以下の三人。クリスチャンと、青いアイシャドウと、強烈な方便の嘘をつく女。看護師は大体つっけんどんなので、話しかけるのは准看護師のほうがいいとのこと。准看護師は、リーゼントを作った女と、酒豪の女と、肌の白い女。酒豪の女は、アルコール依存症の患者を目の前に昨日の晩酌について話すような奴らしい。
検温に来たのはクリスチャンの女だった。
「光浦さん、ここにきて慣れました?」
「まあ、昨日の今日なんで。まだですね」
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