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入院前夜
貧乏だから諦めたけど、本当は神話になりたかった。何も野郎がよく抜かすような伝説になりたいと言う意味ではなくて、誰かにとって、語られることで安心するような人生が歩めたら良かったかもしれない。そんな恋ができたら。そんな家族にできたら。指先が縮み上がるような寒い冬の中で、一人ぼっちで骨になるまで腐ったとしても、喜んで眠るだろう。でも僕はバツイチでアル中だ。お酒はよくない。ちょっとならいい気分になるけど、程度と用法を間違うといくらでも人生を燃やし尽くす。塵まで物体が残っていればいいほう。ちなみに生活保護でギリギリ暮らしてる。ここまで燃えてもまだ燃え足りない。寂しくなったら麦焼酎をチビチビ、のつもりがドボドボと飲んでいく。
何してるんだろとよく思う。今日、昼から酒を飲んで魚を焼いてた。テレビを見ていて、昔付き合ってた彼女に似た芸能人が出ていた。その付き合ってた彼女は人妻で、僕の前にも不倫していた経験者だった。僕はふにゃふにゃ彼女に気に入られてうれしくて、連絡先交換。ポチポチメールして、気がついたら僕んちに来た。何度か会っていくうちに僕ん家に入り浸り、旦那が来た。凄まれてビビる僕をよそに彼女は逃げた。彼女は、実のところ不倫とか嘘が下手くそだったんだなあと思った。でも僕は底辺の恋というぬかるみに完全にハマった。おかげで僕は誰にでも恋ができる自信がある。その彼女は旦那と別れた。彼女と家で連日飲んだ。彼女が僕に飲ませた。ある日僕は救急車で搬送された。それからあんまり働けなくなった。退院して、僕は彼女んちで連日飲んだ。生活保護で飲んでた。彼女が僕に飲ませた。僕は何度もトイレで吐いてて、なんだこの女はと思わなかった。後日彼女から別れを切り出された。「悟史はわたしがいると駄目になるから……」と言われ、数週間経ってからなんだこの女はと思った。
思い出してたら、焼いた魚が火を吹いていた。火はコンロを覆う。頑張って消しても黒くなった焦げは消えない。大家に怒られた。母親に連絡がいって、母親からも怒られた。それでも身を燃やし足りない。酒が止められない。なんなんだこの暮らしは。働いてないのにお金が貰えて、貰ったお金で酒を飲んで、酔っ払って入院して。他にやりようがない。大家からも母親もガミガミ怒るけどやめられない。こんなの「どうぞ酒を飲んでください」と言うような状況じゃないか。あ、酒瓶空になっちゃった。
酒が切れたのでコンビニに行く。並べられた成人雑誌はそこにあるだけでとてつもなくエロい。たまらずかごに入れる。アイス付近でイチャつくカップルの女のニットがエロい。何故か肩を出している。タイツも履かず、ミニ丈萌え袖。店員のフィリピーナは無愛想だがフィリピンパブでの記憶が浮かんで楽しくなる。
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