プロローグ

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プロローグ

今日も昨日と同じ様に暗いうちに目覚め、淡々と自分がするべき事をして、今日が出来るだけ平和に穏やかに終わる事を祈り、一日を終えるはずだった。 はずだった…のに…普段は入る事を禁止されている応接室に呼ばれた。 突然お母様が来て妹のドレスを着る様に言われ、慌ただしい中、お母様の罵声が厨房に響いていた。 「少し小さいけど仕方ないわね。背を丸めて誤魔化しなさい!それから顔も洗って髪もとかしなさい!これ、もう返さなくていいから!汚いわね。どうしてこんな娘に会いたいのか分からないわ。いい?余計な事は言わず、お父様の言われる事に頷くだけで良いのよ。分かったわね?」 脱いだ服の裾を少し水で濡らし、着た綺麗なドレスが汚れない様に顔を拭き、お母様が床に投げ捨てた高価な櫛を髪に通した。 こんな良い櫛で髪をとくのはいつ以来だろうと思いながらも、後が怖そうなので、正直に言えば有り難くはなかった。 「早く来なさい!」 触りたくもない、という目を向けられてお母様は扇子を口元に置いて前を歩いて行く。 こんな場面を見た人がいたら、どんな母親かと思われるかもしれないけれど、この人は実の母親になる。 母親の実家は男爵家で、首都からは遠い辺境の地を治めている田舎領主になる。 そんな田舎領主の娘が首都の外れとはいえ、首都に屋敷を構えるグレードルグ公爵家に嫁入り出来たのには理由がある。 この国は『魔法』という物で成り立つ『神聖国』という王国で、周りの国より遥かに大きな領土と力、権力を持つ国だ。 この家はそんな神聖国の貴族の中でもその昔大きな戦争に貢献し、公爵の位を戴いたという由緒正しい家柄の公爵家だった。
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