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第2話
*
俺には同い年の幼馴染みが居る。
運動が嫌い、勉強が苦手、知らない人と話せない、いつも俯いて思ってることを口に出さないし、滅多に笑わない。
「渡利の幼馴染み……だっけ? なーんか根暗だよな」
「いつも渡利くんの後ろついてるだけだし、あたしたちと目も合わさないし話振ってもうんとかしか言わないし」
「そもそもタイプが違うんじゃない?」
俺の周りに居るタイプはいつも幼馴染みを嫌がる、俺の傍にいつも居るから気に食わないとか。
不満げな顔を見渡して俺はそれにいつも笑顔で返した。
「それがどうかした?」
それが俺の幼馴染みの、板垣佐助だ。
タイプが違うから何なんだ、同じ人間なんて居ない。
俺の傍に居るのは昔からずっとそうだった、だって俺たちはずっと一緒だから。
物心ついた時から中学までずっと同じクラスで、休みの日も大体遊んでる。
佐助は人から理解されにくい性格だ、でもそれは俺が分かってやれば良いだけだしフォローしてやればいい、俺が居れば佐助は孤立することなんてない、俺が背中を押して人の輪に入れば良いだけのこと。
「……要、僕、今日はちょっと早く帰る」
「用事なんてあった?」
「……具合悪いから」
佐助も俺の友人たちを避けようとしてた、そんなんじゃ大人になった時に大変なのに。
でも仕方ない、佐助は俺しか友達を作りたくないのかも知れない。
他に人が居る時は喋らないのに、2人きりの時はちゃんと喋る。
佐助は、俺だけが良いのかも知れない。人の輪に入れる度に何度も確認した、俺にしか視線を送らない。
「じゃあ、俺が送ってくよ」
「え……でも、他の人待ってるんじゃないの」
「約束なんてしてないし」
「そんな……いいから、別に。1人で帰れる」
「何で、具合悪いんなら心配ぐらいするだろ。ほら、鞄持ってやるから」
「……」
だから俺も、佐助をなるべく優先させた。
一番最初の友達でずっと仲良い幼馴染みが、俺だけが良いなら尚更で。
「よお、イケメンくん。君ってモテるんだってな」
「は? ……荻野先輩、でしたっけ」
「そ、知ってくれてるなんてコーエイだなー、オレは君の名前知らねーけど、ははっ」
「何か用ですか?」
中2の終わり頃、3年の卒業式に今まで名前だけ知ってた良い噂を聞かない問題児と有名の荻野潮に初めて声を掛けられた。
もう居なくなるのに、何なんだと思いつつ笑顔を向ければ、「うわ」と馬鹿にしたような笑みを向けられる。
「君みたいのムリ過ぎて笑うわ、こんなのよりオレの方がイー男でない?」
「帰っても良いですか? 先輩と違って忙しいので」
急に喧嘩を売られたので取り繕う必要もないなとすぐに背を向ける、こんなのに絡んでる暇はない、佐助を1人で帰してしまうことになるし。
そう歩き出す俺の背に「心も狭ーな」と言う声に顔だけ軽く後ろを向けば、荻野潮はいつの間にか取り出したスマホに視線を落としてて。
「ユーモアにも欠けてんなー、ま、正確に言えば君自体に用はねーんだよ……君、がよく付き纏ってる子、居るじゃん?」
「……付き纏ってる?」
「こーれ。君がべったり引っ付いてんだろ?」
スマホの画面を向けられるので、仕方なく踵を返して荻野潮に向き直して見やればすぐに「は?」と声が出た。
画面に映し出されてるのは、教室で1人で机に視線を落としてる佐助だったから。
「……こいつが、何なんですか?」
「うん? いや別に?」
「別に? 何でもないはずないだろ、盗撮までして」
「ははっ、必死じゃん。忙しいんじゃねーの? 帰れば?」
「あんたこそ早くこの学校から出てけよ、ご卒業おめでとうございますさようなら」
「カルシウム足りてねーんじゃね? これやるから食っとけよ」
投げ渡されたものを思わず受け取れば、ミルクキャンディに「要らない」とすぐに近くのゴミ箱に捨てれば「あーあ、食べ物を粗末にしてら」と笑って、今度は荻野潮が背を向けた。
「おい、近付くなよ!」
「誰に指図してんだよ、別に君のモノでもねーのに」
「は!?」
「つーか、そんな声荒らげて大丈夫? 君のイメージ像的なヤツ、ぶっ壊れる前に猫被っとけよ、優等生キャラのイケメンくん?」
ははっ、と嫌味な笑いを上げてさっさと去ってく荻野潮を追い掛けようとして、すぐに教室に向かって走り出す。
何で、何で何で、佐助のこと誰も興味ないんじゃないんだろ、勝手に嫌だって孤立させてたのに、何で佐助に興味持つ奴が居るんだよ?
今までずっと、ずっと、佐助に近付く奴なんて居なかった、だから佐助には俺しか居ない。
いや?
そこで足を止めて、乱れる息を吐いた。
「……居たかも知れない」
佐助に近付こうとしてた奴、1人で居る佐助に話し掛けようとしてた奴、それに気付いた俺が傍に寄れば去ってたような。
じゃあ、もし。佐助が俺以外に友達とか作るかも知れないってこと?
…………何で?
「要らないよ、そんなの」
だって、今まで俺だけだった。今更だろ、そんなの。
佐助には俺しか居ない、そうだ、だって友達が欲しいなら人の輪に入れた時に誰かと話すはずだ、佐助はそんなことしなかったじゃないか。
──俺だけで良いんだって、佐助はそう思ってる。
だから俺は、佐助の依存を受け入れて傍に居てやってるんだ。
友達はたくさん居るけど、佐助が一番俺を想ってるんだから、その想いは悪い気はしない。
他の奴が近付いたところで佐助は見向きもしない、なんだ、俺が焦ることなんてないじゃないか。
……焦る? 何に?
「隣の高校の2次募集を受けるって? 要、地元に行くって言ってたでしょ?」
「うん、でも気が変わったんだ。駄目かな、お母さん」
「うーん……学力的にはあまり変わらないけど……少し遠いでしょ、あっちだと……高校変えるなら本当は私立受けて欲しかったのよ?」
「少しだけだし、早く出れば大丈夫だよ。勉強はちゃんとやるし」
「それなら……まあ。でも、お友達みんな地元受けるのにね」
佐助に拒絶された、俺の手からすり抜けて離れたいなんて言って別の高校に入試に行った背中は脳裏に焼き付いて仕方なかった。
自室に戻って灯りをつけないままベッドに身を投げて暗い天井を見上げる。
「佐助には、困ったな……」
何でわざわざそんなことをするんだ、あんなに構ってやったのに逃げる真似なんてして追い掛けて来てくれってこと?
本当は俺が居ないと駄目なのに強がって嘘なんてついて、そんなことするなんて思わなかった。
確かに秋ぐらいから俺を避けるようになって、俺の周りも他の人だらけになって構えてなかったけど、避けて俺から離れたって佐助には誰も近付かなかっただろ?
わかったはずなのに、佐助には俺しか居ないのは。
「仕方ないな、佐助は。俺が居てやらないと」
今までずっと居てやったのに、俺が居ない環境なんて佐助には耐え難いはずだ。
優先して欲しいならちゃんと言ってくれないと、俺だからわかるんだ、佐助のことは何でも。
だから、佐助。
俺から目を逸らして逃げるなんて真似、駄目に決まってるよな?
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