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入試当日、早めに起きた僕は勉強、するでも無く、スマホの動画サイトを開いた。
大好きな魔法少女アニメ『宝石少女ニーナ』、の推しの登場シーンだ。
主人公ニーナが1話で仲間の魔法少女が消えたことに絶望して泣いてる前に、僕の推しである先輩魔法少女の星巡サーラは『泣かないで』と輝かしい笑顔を向ける。
それにニーナが『みんなが消えちゃったのに、サーラちゃんはどうして笑ってられるの?』と問い掛けに対して、サーラは笑顔のまま答えた。
『ボクは魔法少女、1人でも多くの守るべきみんなに平和と笑顔を届ける側だからさ』
『悲しく、ないの?』
『助けに来た魔法少女が悲しそうな顔だったら嬉しくないだろ? だからボクは笑うんだ』
その言葉に僕は痺れた、何てカッコいい女の子なんだと。
でもサーラは全48話あるうちの2話目で退場してしまうし3話からのオープニングからも消えてしまうキャラで、作品のファンたちの間でも「サーラって誰だっけ?」と忘却が起きてしまうほどのサブキャラだった。
グッズなんかも出てないけど、それでも僕は彼女が好きでネットで星巡サーラ推しを名乗ってるほどだ。
「よし」
サーラの登場シーンを見てやる気を出し、準備をしてるとスマホに通知が。
ネットで仲良くしてくれるフォロワーからのDMと気付きすぐに開く。
『今日って入試だよね、頑張って』と短いながらも励ましのメッセージに感動してしまう。
「牛くん……」
牛くん、と言うペンネームのフォロワーと出会ったのは中1の時だ。
僕がサーラのことを話しながらたまに絵なんかを描いてみて一桁程度の宝石少女好きのフォロワーたちに『またサーラ描いてる』『サーラ覚えたわ』なんて言われてる時、牛くんが突然フォローしてきてメッセージをくれたのだ。
『最近アニメにハマってサーラ好きの人が居て嬉しいです』と。
驚いた僕が返信すると、どうやら彼はサーラの親友の月明アカネが好きで、アカネ好きは見るけど親友のサーラ推しが居なくて寂しく思ってたところに僕を見つけたのだと言う。
そして話してるうちに優しい牛くんと仲良くなって、今では色んなことを話せる一番仲の良いフォロワーだった。
リアルの友だちは居ないけど、僕には牛くんと言うネットの友だちが居るから大丈夫だ。
「頑張ってきます、と」
牛くんに返信してから、鞄を持って部屋を出る。
もう母さんは仕事に行ってしまってるけど、置かれた朝ごはんを食べて時計を見た。
まだ早い時間だけど、お節介な要が迎えに来て一緒に行こうと言い出しかねないから早く出てエンカウントを避けたい。
食器を片付けてから鞄を持って玄関から出る、と。
「佐助、早いな」
「あ? ……か、なめ……何で?」
アパートの入口で佇む見慣れてしまった幼馴染みの姿に一気に寒気がする、だってまだ早い時間なのに、待ち合わせだってしてないのに、何で当たり前みたいに待ってて僕に話し掛けてくるんだ。
「近所なんだし、行くとこも同じなんだから一緒に行った方が早いだろ?」
「い……、他の人と、行けば良いんじゃない……最近、あまり話してもないんだし……」
同じとこなんて行かないし、あれから避けてたのに何で、いつから待ってたんだ、まるで。
まるで僕が早めに出るってわかってたみたいで、僕の行動を見透かされてるみたいで本当に気持ち悪い。
目を逸らして通り抜けようとする僕の進行を阻むように、要は腕で制してきて。
思わず顔を向けると、いつもみたいに人に向けるような余裕ある笑みを向けられた。
「なあ、佐助。俺のこと、避けてるよな?」
「……」
「何で、とは聞かないけどさ、でも俺は佐助のことが大事な幼馴染みで友だちだから、今までみたいに仲良くしたいんだ」
「……」
「無視しないで、佐助。答えて。俺のこと嫌い?」
嫌いだ、大嫌いだ、気持ち悪い本当に無理。
それを言えばムキになって構われるのは目に見えてる、要と言う奴は人に好かれるのは良いけど嫌われるのは大嫌いってタイプだ。
朝から本当に最悪だ、だから嫌いなのに。
「佐助」
「……悪いけど、僕、入試に行かなきゃいけないから、退いてくれる」
「だから俺も一緒に行くって」
「行かないよ、別の高校の入試なんだから」
「……………………、は?」
貼り付けてた笑みが一気に剥がれ落ち、表情を強張らせる要の横を通り抜けて、要が向かう地元の高校とは反対側の道へ歩き出す。
その背中に「……っ、佐助!」と声が掛けられても振り返らなかった。
「別の高校って何で、同じ高校に行くって言ってたのに、何でそんな俺のことそんなに嫌いなら嫌いって言えば良いだろ?」
「……」
「無視するなよ、なあ、俺とお前は幼馴染みだろ。ずっとずっとずっと、一緒に居たのに何で何も言ってくれないんだよ、佐助、嘘だ待って嫌だよ、何で怒ってるのか、俺が!」
「要」
うわ言みたいに追い掛けてくる幼馴染みを振り返り、真っ直ぐ見ると珍しく焦った顔をする様子に僕の表情筋も珍しく笑みを溢す。
「幼馴染み離れしたいって言うか、いつまでも要の世話になってたら要に迷惑掛かるでしょだから僕以外ともっと仲良くした方が良いし僕も僕なりに交流してみるから」
「幼馴染み離れ」
「じゃあね」
体ごと視線を戻し、要に背を向けた。
母さんが再婚することも、恐らく引っ越すこととか別に言わなくても良いだろ。
だって、嫌われたと言わなくてもこの態度なら要は察する、僕と違って頭が良い要なら。
「わからない、わからないわからないわからない、わからない。佐助、ちゃんと言ってくれないとわからない」
「……っ、」
「佐助!」
それなのにまだしつこく追い掛けてきた要を振り払うように、僕は無我夢中で高校まで走った。
走るのは苦手だし、運動なんてしたくないし、隣町だから距離は近い訳じゃない。
それでもひたすら走った、要から逃げたくて。
「はあ……っ、はあ、はあ……」
足をもつらせながら辿り着いて振り返る、いつ諦めたのかわからないけど要の姿がないことに息は乱れ脳に酸素は足りなくて汗だくで体は悲鳴を上げてる、それでも。
「……ははっ」
要から離れられる第一歩を見事に踏み出せた、その実感に心が躍る。
大嫌いだよ、渡利要。言わなくても、もうわかって欲しい。
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