プロローグ

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入試も終わり、週末。 母さんの再婚相手に会う、と言うか相手側の家に招かれた。 地元でも裕福層が住まう地区に建つマンションを見上げ、母さんの腕を掴む。 「な、何してる人なの……?」 「システムエンジニア、とか言ってたわ」 「そ、そうなんだ……」 普通の会社員とかではないとは思ってたけど、SEってそこまで儲かるものなのかもわからない、でもここに住めるだけの財力と子どもを養えて、更には高校入学間近の子連れの相手と再婚を決められるだけの胆力はあるのは僕にでもわかった。 相手に連絡を入れたのかオートロックが外れ、中に母さんと共に入る。場違い感が拭えず恐縮しながら母さんのあとをついてくと、エレベーターで上がった先の一室、の前で見たことがある男性が居た。 「香苗さん、佐助くん。こんにちは」 「聖一さん」 聖一さん、と呼ばれた男性に駆け寄る母さんの後ろで会釈すると、彼は「佐助くん」と眉を下げる。 「君の大切な時期に再婚を決めて申し訳なかった」 「あ、いえ……中学は終わるので」 「うん。佐助くんが高校生になる前が良いと思っていてね。さあ、2人とも中へ。私の息子も揃っているので」 連れ子は息子のようだ、いくつくらいなんだろ。 歳が近……くても、僕みたいのと"きょうだい"になるのは嫌だろうし、幼くても僕みたいのが兄になるのは嫌だとは思う。 案内されて入った玄関の広さに舌を巻きながら、通されて入ったリビングはそれよりも当然広い。 そしてソファーに腰を下ろす後ろ姿に「潮」と聖一さんは声を掛けた。 「今日から家族になる板垣……いや、香苗さんと佐助くんだ。お前も挨拶をしなさい」 「ああ、はいはい」 気だるそうなその声、を聞いた瞬間、ゾワッとする。 聞いたことはない声なのに、何故だか鳥肌が立って。 その感覚は立ち上がりこっちを振り返った人物を見て、間違いではないことが確信に変わった。 「どうも、荻野潮(おぎのうしお)でっす、と。以後お見知りおきをって言えばイイ?」 ベリーショートに近い、前髪の片側だけが長い黒髪の長身の男、を見て体が固まるのを感じる。 片側だけよく見えるつり目とバチリと合い、彼はニイ、と口角を上げた。 「佐助、くんだっけ。君、来月から高校生なんだよな。じゃあ弟くんだ、よろしくな弟くん、お兄ちゃんって呼んでくれていーぜ」 「は……」 のしのしと近寄ってくる長身に、思わず一歩、後退る。 だって、だって、この男は。 間近に見下ろされる、その圧に目が逸らせなくて。 「弟、イイよな、欲しかったんだ弟。仲良くしよーな、弟くん?」 ニッと笑うその男に返事が出来ないまま俯けば、聖一さんが「潮、やめなさい」と宥めた。 「イイだろ、今日からオレたち兄弟なんだから。な、弟くん。ほーらお兄ちゃんだよー」 「潮」 「チッ、まっイイか。これから時間はいっぱいあるし」 な、弟くん。 と見下ろされてる視線を受けながら、僕は顔を上げたくない。 だってこの、男は。 要とキスしてた、彼氏だ。 何でよりにもよって、要の彼氏、今は付き合ってないなら元カレなのかわからないけど、そんな奴が兄になるんだ。 せっかく、要から離れられるのに。 最悪だ、本当に無理。 僕の第2の人生とやらも、どうやら輝かしいものではないらしい、と即座に悟るしかなかった。
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