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陸斗は両足の激烈な痛みで目覚めた。まるで食い込んだトラバサミによって足首ごと引き千切られるかのような鮮烈な痛みだった。
陸斗は布団を跳ね除けて足元を確認する。それから目に飛び込んできた光景に絶句した。
両方の足首から下が暗黒色にすっかり変色しているのだ。まるで古い木彫りの仏像の足のようだった。何が起こっているのか分からず陸斗は悲鳴を上げた。
「一番大切なものは失って初めて気づくのよ」
いつのまにか母親が枕元に立っていた。奇妙なことに母の美智子は病院で見かける看護師のような恰好をしていた。
「陸斗はね、好き嫌いばかりするから糖尿病になっちゃたのよ。血流が悪くなって両足とも腐ってしまったの。ね、なんだかエジプト展で見たミイラの足そっくりでしょ」
恐ろしい言葉と裏腹にやさしく語り掛ける美智子の態度に、陸斗は言い知れぬ恐怖を感じた。
「ママ、僕、どうしたらいいの? どうすれば足が元に戻る?」
「残念だけどもう元には戻らないの。それより、腐った足が感染しているのが問題。このままだと悪いばい菌が全身に回って死んでしまうわ」
陸斗は心底恐ろしくなって大粒の涙を流しながら美智子にすがりついた。
「ママ、助けて、助けて‼」
「大丈夫よ陸斗。今、切断すれば命は助かるわ」
「切断!? 足を切っちゃうの!?」
「そうよ。助かるためにはそれしかないの」
「足首から下がなくなっちゃうの!?」
「いいえ、もっと上の方までばい菌が侵入している可能性があるの。だからもっと上の方から切らなきゃいけないわ」
「上ってどこ!? 脛とか?」
美智子は黙って首を振る。
「もしかして膝?」
美智子はまた首を振ると、陸斗の身体の一部を指さした。それは股の付け根だった。
「そんなところから切ったら両足がなくなっちゃうよ!! これからは手で歩けっていうの!?」
「何言ってるの、陸斗? 手で歩けるわけないじゃない」
そう言うと、美智子は陸斗の両手首をつかんで引き上げる。
目の前に強引にかざされた自分の手を見て、陸斗は驚愕の悲鳴を上げた。
陸斗の手指は、どれも付け根から真っ黒に変色していた。
「陸斗はね、好き嫌いばかりするからバチが当たってだるまさんになるのよ」
陸斗は白目を剥くとそのまま後方へひっくり返った。
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