健康な家族

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「レンタルできないってどういうことですか!!」  漢方薬局の店内に美智子の叫びがこだました。べっこう眼鏡の店主が冷ややかな視線を美智子に向ける。 「ですから、一番最初にレンタルされた病気がまだ返却されていないのですよ。とうに返却期日を過ぎているわけでして…。まずはそちらを返却していただかないことには、新たなレンタルは致しかねます」 「嘘よ。お借りした巾着はすべて返却しているはずです! 旦那を懲らしめるために、強力な病気をレンタルしたいんですけど!!」 「お客様、ご家族のために度々当店のレンタルサービスをご利用いただいていることは存じ上げております。しかし…お忘れかもしれないが、あなたは一番最初にご家族ではなく、このサービスを利用されたのですよ」  店主の言葉に美智子は唖然とする。 「私自身のために病気をレンタルした? 意味が分からないんですけど? 私、改善するような不摂生な習慣なんてありませんけど?」 「いいえ、確かにあなたは借りたのです。ここに領収証の控えがあります」  店主は勘定台の下から書類の束を引き出すと、その内の一枚を引き抜いて美智子に差し出した。それは確かに美智子が利用した領収証の控えだった。日付を確認すると、初めて店を訪れた日が記されていた。  あの時は気味が悪くて、何もレンタルしなかったはずだけど…  怪訝に思いながら領収証の詳細を確認する。『レンタル商品(病名)』の欄を見て美智子は「あっ」と短い声を上げた。顔を上げると店主と目が合う。べっこう眼鏡の奥の瞳が怪しい光を放った気がした。  突然、眩暈に襲われて世界がゆっくりと回転を始める。美智子はよろけながらも急いで店から逃げ出ようとした。木枠のガラス戸を引き開けて外に足を踏み出した瞬間、身体にかかる重力が消失した。薬局の外には何もなかった。ただただ濃密な闇が広がるばかりだった。暗い深淵のさらにその奥へ美智子はいつまでも落ち続けた。
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