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「もうそうせいしょうがい?」
「ああ、ママは今、悲しい思い込みと妄想、幻覚に取り憑かれたひどい悪夢にうなされてるんだよ」
顔を歪めてさめざめと泣き眠る美智子の顔を慎一と陸斗がのぞき込む。美智子の悲哀に歪んだ寝顔を見て、陸斗がブルっと体を震わせた。
慎一が美智子のクローゼットから大量の領収証を発見したのは2日前のことだった。枕元に隠された巾着は陸斗が発見した。
毎夜訪れる悪夢の原因を知った慎一は、すぐに領収証に書かれてあった漢方薬局へと出向いた。そして病気レンタルを利用した。美智子の枕元に忍ばせるために。
きっと今頃、家族が存在しない世界を自分で勝手に創り上げて途方に暮れていることだろう。
「ねえ、パパ。こんなに泣いてるけどママ大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。明日からはとびきり優しいママに生まれ変わって、二度とパパや陸斗にひどいことをしないはずさ」
慎一は不安げな陸斗の頭に手を置くと、力強くウィンクをした。
「だって一番大切なものは失って初めて気づくんだから」
END
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