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暫くして、漸く俺の名前が呼ばれる。通された部屋の中、面接官は初老の男性一人だけだった。
「神楽坂スバルです、宜しくお願い致します」
パイプ椅子に座り、面接官の出方を伺う。けれど簡単な自己紹介を終えた段階で、予想していた質疑応答は無かった。
「神楽坂さんには、これからテストを受けて貰います」
「……テスト、ですか?」
学力テストなら問題ない。けれど再び予想に反して、出されたお題は、「制限時間内に面接官と『友達』になって下さい」というものだった。
「……とも、だち?」
全くもって意味が分からない。
そんなもの、企業の面接と何の関係があるのか。
人材派遣会社。例えば営業に必要な能力を見るというのなら、セールストークだとかそういう実力を見れば良い。あらゆる職場に順応する臨機応変さを見るなら、もっと別の方法もあるはずだ。
それが、『友達』になる?
意図をはかりかねる俺の表情を見て、面接官は柔和な笑みを浮かべる。
「我が社は人材の派遣によって『笑顔』を生み出すのを目標にしています。よって様々な相手に対して友好的な……端的に言えば、初対面でも友達になれそうと思われる程度の対人スキルは、最低条件です。これをクリア出来なければ、仕事になりません」
最低条件。それすら満たせぬようでは話にならない。そこまで言われて引き下がれる訳もなく、俺は自信満々に頷く。
『友達』なんて曖昧な定義をどう判断するのかと問えば、今から現れる面接官二人を相手に、制限時間内に友好的な印象を与えられれば……『友達になれそう』と思われればお題クリア。
ざっくりしているが、想定していた質疑応答等よりも余程実践的な面接だ。実力を示すには丁度良かった。
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