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3.
「そういえば、こびとも日本語なんだな」
結局あれからずっと、ミクはちょこちょこ遊びに来ていた。
人間に見つかってはいけないというおきてなどどこ吹く風だ。
それは、かずさの日常になりつつあった。
「あー。まあ、日本語はふだん聞いてるからわかる、みたいな感じかな?」
「こびと同士は別の言語なのか?」
「別っていうか、方言くらいかもだけど。あと言葉そのものっていうより、話しかたのもんだいっていうか?」
「?」
「ヒトにバレないようなしずかな話しかたをするんだよ。矢ばね、みたいな?」
「忍たまのやつ?!」
「そう! よくわかったね! 話がはやい」
「忍たまも勝手に見てたんだな」
「見てたー」
「じゃあ、シュシュッていう感じ?」
「ヒトには、聞こえたとしても風の音とか虫の声とかそういうものに聞こえるような感じかな」
「そうなんだ。じゃあ、虫だなって思った音が実は」
「そう、ぼくらの声なのかもね」
「そうか」
「意外と身近にひそんでいるよ。金曜日の夜の映画のときとかだいたいそばにいるよ」
「いるのか」
「いるんだよー」
「映画好きなの」
「うん。ヒトよりは、娯楽がすくない生活だしね」
「ふうん」
そこでかずさは、ふと思う。
「ちなみに、なんか他に見たい番組とかある?」
「かずくんがひとりで見てるアニメとかはぼくも見たいなって思う」
「そうか」
「うん」
「ん」
と、かずさが差し出したのは、しかくいプラスチックのパック。今日のミクのリクエスト、かつおぶしだ。
「わーいかつおぶしだー。おいしいよねえかつおぶし」
「おおげさだな」
「これ、作るのたいへんなんだよ。ぼくらでは作れないんだ。最近はパックになってこっそりもらうのもたいへんだから、たくさんもらえるとうれしい」
「じゃあ、大手柄になっちゃうだろ。大丈夫か」
「だいじょうぶー。だと思う。たまにパック持ち出せることもあるから」
「うちのものを」
「ありがとうございます」
ミクはうやうやしくかつおぶしのパックを受け取ったが、ひとりで持つのは意外にもすこし苦労した。
「これ、重たくはないけどかさばるんだよね」
「うちの人間に見つからないように気をつけろよ」
「夜までどっかに隠しとこうかなー」
「ああ。その方がいいかもな」
「かずくんのおへやにおいといていい?」
「えー」
「かずくんのおへやはぼくらがほしいようなものもあんまりないし、ひかくてき安全地帯なんだよ」
「まあ、わかんなくはないけど」
「かずくんおぎょうぎいいから、おやつもおへやで食べないしね」
「おれの生活をよく知ってるな」
「うん。いつも見てるから」
「ストーカー」
「ちがうよ。ただ、好きなだけ」
「最近はそういうのうるさいんだよ」
「せちがらいなあヒトの世は」
「あんたらは違う?」
「まあ、むかしよりはいろいろきびしくなってるかもね」
「ふうん」
「むかしのほうが、こどもと遊んだりしてたみたいだし」
「おきてはなかったの?」
「ううん。おきてはずーっとあるんだけど、運用がガバガバだったっていうか」
「ああ」
「ちいさなカメラとか、いんたーねっと、とか、なかったし」
「そうか。たいへんだな」
「うん。でも最近のほうがいいこともあるけどね」
「そうなのか」
「そうなんだ。ものがたくさんある、とかさ」
「そうか」
そこでかずさはすこし考えるようにして、ミクをひたと見すえた。
「おれは、最近にはめずらしいラッキーな子供なんだな」
「ぼくに会えて、ラッキー?」
「ラッキー」
「ふふ」
ほおを撫ぜると、ミクはうれしそうにはにかむ。
「ぼくも、ラッキーだね」
「へえ?」
「ヒトのこどもとなかよくなれて」
「ヒトの子供と、なの?」
「かずくんと!」
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