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9.
「ぼく、そのうちおたんじょうびなんだ」
唐突に、ミクが言った。
そのあからさまな媚を売る態度に、かずさはすぐに事態を理解する。
「──なにが欲しいの」
「話がはやい」
「そりゃわかるだろ」
「おばあちゃんが持ってる、ちいちゃいライト?あるでしょ。ひゃっきんのやつ」
「うん」
「あれがほしいんだ」
「あれ──どうすんの?」
「ん?」
「あんたたちにとっては、わりとでかいでしょ」
「そうなんだけど。あれの中には簡単なチップが入ってて、げんみつにはそれがほしいんだよ」
「それこそなんに使うんだ」
「いろいろあるんだよー。ほら、ぼくらも最近は意外とハイテク化してるから」
「ハイテク」
「ハイテクだよ」
「とはいえさすがにあれを盗んだらバレるぞ」
「だから、かずくんにおねがいなんだよ。買って。おたんじょうびだから」
「いつなの、誕生日」
「三ヶ月後くらい」
「ずいぶん先だな」
「ふふ」
「っていうか三ヶ月後くらいって……」
「そうです! なんとかずくんと一日ちがいのおたんじょうびです!」
「まじか」
「まじだよ。ほら、うんめい感じちゃうでしょ」
「それはべつにないけど」
「えー」
「まあ、今度買い物行くときいっしょにつれてってもらって見てきてもいいよ」
「あーおかいものかー。いいな。ぼくも行きたいなー。車に乗るんだよね?」
「車、乗りたいの?」
「うん。車以外も、のりものいろいろ乗ってみたいよねえ」
「そうか」
「ひこーき、とか、乗ったことある?」
「飛行機はおれもないな。あんな鉄のかたまりが空を飛ぶわけないし」
「えー。かずくん、ひこーき怖いタイプなの」
「怖いっていうか、信じてない?」
「ちなみに鉄ではないらしいよ」
「知ってるよ」
「そっか」
「……乗り物は、どうにもならないな。今のおれに乗せてやれるとしたら自転車くらいだから、そんなおもしろくないだろうし」
「そんなことないよ」
ミクはなにかを想像したようで、気色悪くふふふと笑った。
「乗せてくれるの、じてんしゃ」
「乗りたいの」
「うん。ふたりのり、っていいよね。青春だよね」
「いや、あんたは前のかごだよ」
「ええー」
「転がり落ちたくないだろ」
「たしかにおちたくないけど……」
かずさの言い分に、ミクは不満そうにほおをふくらませる。
「おおきくなれたら、うしろに乗せてくれる?」
「神棚の薬が本物ならな」
「おくすりほしいなー」
「それだけ聞くとやばいセリフだ」
「たしかに」
「あ、いや」
「?」
「大きくなっても後ろは嫌だな」
「え、なんで?」
「サイズがそろったら絶対あんたの方が重たいだろ。こぎたくない。前乗って」
「シビア!」
「うちのあたり、地味に起伏が激しいんだよ。田舎だから」
「でも、ふたりのりはしてくれるんだ」
「そのくらいはべつに」
「うれしー」
「自転車くらいでおおげさだよ」
「せーしゅんしたいんだ」
「なんか言い方がいかがわしい」
「えー」
「そういえば、ちょっと行ったところになぜかおしゃれパン屋の自販機があるな」
「パンの、じどうはんばいき?」
「そう。ちょっと高いけど、おいしいらしい」
「へえ」
「いっしょに行く? 自転車で」
「いく!」
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