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夜の「ネオお台場」にて、「ヒロポン入り団子」をバングラディシュから密輸入している悪徳業者のものと思しき倉庫の前に清輝は辿り着いた。
倉庫の鉄扉に耳を当て、中の様子を伺う清輝。
鉄扉のヒンヤリとした感触が皮膚へと伝わってくる。
冷ややかさ故、思わずその身体を身震いさせる清輝。
しかし。
清輝か感じた冷ややかさは、扉のものだけでは無かったのだろう。
後方から密やかに忍び寄る何者かが発する殺気を感じ取ったが故だったかのかもしれない。
何者かは音も無く清輝の背後に忍び寄る。
そして、その手に携えた特濃ヒロポン団子を清輝の口へと押し込んだ。
特濃ヒロポン団子は兎角甘かった。
血糖値がスパイク的に急上昇した清輝は、ヒロポン団子を噛み締めながら、その意識を途絶えさせた。
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「おい、丁髷野郎!!!」
不躾で優美さを欠く呼び声が清輝の耳へと響き入る。
目を見開いた清輝の前に立ちはだかっていたのは人相の悪い禿頭の男だった。
清輝は折りたたみ椅子に座らされ、その手足をガムテープで緊縛されていた。
丁髷に非ずんば人に非ず
それが清輝のポリシーであり、そして、目の前の男の禿頭は清輝の冷静さを失わせるには十分過ぎた。
「殺すぞ!
このノー・丁髷野郎!!!」
怒気を孕んだ清輝の叫びが倉庫の中へと谺する。
けれども、禿頭の男はせせら笑うのみだった。
一頻りせせら笑った後、禿頭の男はこう口にする。
「おうおう、時代錯誤の丁髷兄ちゃんよ!
こんな具合にふん縛られちまってるのに、随分とまた元気じゃねぇか。
自分の立場ってもんが分かってんのかぃ?」
そして、懐から拳銃を取り出して清輝の額へと狙いを定める。
「お前さん、随分と有名な丁髷アイドルなんだって?
そんなアイドルさんがこんな汚らしいヒロポン団子倉庫でブチ殺されるなんざ、哀れもいいところだよな」
倉庫の至る所から嘲笑うような声が上がる。
嘲るような哄笑が清輝を包み込む。
一際大きな笑い声が清輝の後ろから響いてくる。
次の刹那。
倉庫の中に破裂音が響き渡った。
哄笑は止み、沈黙が倉庫の中を支配する。
清輝の後ろから呆れたような声が響く。
「おいおい、そんなに早くこの丁髷兄ちゃんをブッ殺しちまったら面白くないじゃねーかよ!
お前はいつも気が短過ぎるんだよ!」
けれども、清輝の前の禿頭の男は、その声に応えることは無かった。
呆然とした表情をその顔に浮かべた禿頭の男。
その額には赤黒い穴が空いていたのだ。
禿頭の男は崩れ落ちるかのようにしてその場に倒れた。
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