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清輝の月代に鎮座する三つの丁髷のうち真ん中に位置するもの。
それは、艶やかなその髪の毛を、まるで針のようにして撃ち出す機能を備えていたのだ。
清輝は生命力に溢れる男だった。
四肢に漲るその生命力は清輝の肢体を細マッチョなものとし、そしてセクシーなフェロモンをこの上無く濃密に発散させていた。
小娘ことトメが清輝にその身体を弄られた刹那に絶頂に達したのも、その強烈極まりないフェロモン故であろう。
そして、清輝に漲る生命力は、その毛根をも類を見ないまでに活性化させていたのだった。
その生命力故、清輝は己の丁髷を形作る毛髪の一本一本を精妙にコントロールすることが出来たのだ。
そして、丁髷を為す髪の毛を精妙にコントロールすることで、丁髷の中に真空状態を作り出して、それを瞬時に解放することで、髪の毛をまるで弾丸のようにして撃ち出すことが可能であったのだ。
その速度はマッハ2.0に達し、その威力は厚さ10センチの高張力鋼を射貫くまでと言われている。
真空状態が解放される瞬間には破裂音が鳴り響き、そして空気中に含まれる水分を瞬間的に加熱することにより仄かな白煙が発生するのだ。
倉庫の前にてUAVを撃ち落としたのも、この丁髷から放たれた髪の毛であったのだ。
そのような理屈はともかく、清輝の丁髷から何かが弾丸のように撃ち出され、そして一味を次々に射倒していることがようやく理解できたのだろう。
清輝の背後から響く声には焦り、そして怖れが混じっていた。
「や、野郎ども!
そいつの丁髷からヤベえものが何か飛び出していやがる!
丁髷野郎の正面に立つんじゃねぇ!
殺られちまうぞ!!!」
その声を聞いた手下共は倉庫の柱、或いは倉庫のあちこちに置かれている木箱の陰などにその姿を隠し、そして清輝の様子を伺っていた。
清輝の背後から声が響く。
「撃ち合いでは無理だ!
刀だ!近寄って刀でブッ殺せ!」
その言葉に応じるかのように、幾人かの禿頭の男達が、恰も疾風のように倉庫のそこかしこから走り出てきた。
彼らの手には青白い電光を煌めかせる超電磁日本刀が握られていた。
超電磁日本刀を構えた禿頭の男達が、四方八方から清輝に殺到する。
まるで疾風のようにして。
如何に清輝の丁髷がマッハ2.0で毛を撃ち出せるにしても、それで倒せるのは一度に一人。
そして、清輝の正面にその姿を捉えなければ当てることは叶わないのだ。
清輝が誰か一人を撃ち倒し、そして次の相手へとその顔を向けようとしている間にも、殺到する禿頭の男達の超電磁日本刀は清輝の身体を捉えてしまうだろう。
清輝の背後から哄笑が響く。
「うわっはっは!
勝負あったな、丁髷ボーイ!
さらばだ!」
しかし、禿頭の男達の超電磁日本刀が清輝の身体に届くことは無かった。
禿頭の男達が清輝に向けて超電磁日本刀を振り翳したその刹那、黒き輝きが一閃した。
そして、禿頭の男達はその胸から血飛沫を迸らせながら、バッタリと倒れ伏したのだ。
倉庫の中を沈黙が満たす。
その沈黙を破るようにして、鋭い風切り音が響く。
それは、清輝がその右手に握り締めた何者かを振った音だった。
清輝のその右手には、艶やかに黒く輝く一本の棒が握られていた。
いや、それは黒く輝く鍔の無い日本刀といった姿だった。
清輝は迫り来る禿頭の男達を、その黒き刃の一閃で切り伏せたのだ。
そして、その刃に滴る血を振り払った時の音が、例の風切り音だったのだ。
「きっ、貴様!
いつの間にそんな代物を!!!」
清輝の背後から響く声は、今や恐怖に震えていた。
怯えに満ちたその声を圧するかのように、清輝の誇らしげな声が谺する。
「冥土の土産に教えてやろう!
これこそが、かの恐るべき殺人奇刀・丁髷ブレードなり!」
声にならない悲鳴が清輝の背後から響いた。
それは、最早怯えに満ち満ちたものだった。
そう、清輝のその右手に握られている「丁髷ブレード」、それは彼の三本の丁髷のうち、右側に位置しているものが変化した姿だったのだ。
丁髷ブレード、それはその四肢、そしてその毛根に生命力が漲る清輝だからこそなし得る神技であった。
清輝の丁髷は、その生命力ゆえ、一時的に頭から取り外すことすら可能であった。
そして取り外された丁髷は、その長さを自由自在に変えることすらも可能であったのだ。
また、恐るべきことに、変えることが出来るのはその長さだけではなかった。
その硬さも、そしてその鋭さすらも自在に変えることが出来るのだ。
その硬さはオートクレープ加工された超硬化炭素繊維に匹敵するものであり、その鋭さは分子レベルにまで研ぎ澄まされていた。
それ故、仮に禿頭の男達が振り翳していた超電磁日本刀と鍔迫り合いを演じたとしても、その超電磁日本刀もろとも彼らを両断することが可能であったのだ。
「ちっ、畜生っ~!!!
者共、怯むな!
怯むんじゃねぇ!!!
止まるんじゃねぇ!!!
この丁髷野郎を絶対に生かして帰すんじゃねぇ!」
清輝の背後から響くその声は、その勢いの良さとは裏腹に、どこか絶望の響きを帯びていた。
倉庫のそこかしこから禿頭の男達が姿を現わし、そして清輝へと襲い掛る。
しかし、殺人丁髷の一撃毎に、そして丁髷ブレードの一閃毎に、彼らは物言わぬ姿と成り果てて行った。
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