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1.呼ばれて飛び出てみました。
「あー・・・疲れた・・・。」
私はキャリーバッグを引きながら渡月橋を渡っていた。
くっそお・・・、ヒールじゃなかったら・・・ビジネスじゃなかったら完璧に観光していた!!
周りは夕暮れ時、父親の仕事の取引先まで私はこれから挨拶しに行かねばならない。
観光客さえいなかったら今頃この橋の上から大声でバカ野郎!と叫んでいたところだわ。
疲れすぎて、あたりにあまり人がいないことを確認してからカバンからたばこを取り出した。
他人から見れば憧れの存在に見えるかもしれない、海外を股にかけて世界を飛び回る私。
元々商売人の家計だ。
お金を稼ぐことは好き。
だけど、男はいない。
そんな三十路の私はバツイチ。
「あーあ・・・どっかにイケメンおっこってないかなあ。」
そういえば、京都にきたついでにお寺観光したかったのに時間に押されすぎて時間がなかった。
ああ・・・唯一の私の癒し。
それが遠ざかって更に自己嫌悪に陥った。
なにがむなしくてこんなに働かなくちゃいけないのよ・・・と。
「あ、阿部清明公像を拝みにいきたかったんだっけ。」
そう思いながらふと紫煙をくぐり私は川を見下ろした。
川のせせらぎが気持ちよい。
「~~~~っ、っろっ!」
誰かの声がする。
「~~~っか!えりかっ!!」
「え?」
私の名前?
目を開けば夕日の光がまぶしくて。
そんな光を誰かが遮った。
「俺の手を掴め!!えりかっ!!」
「ふぁいっ!??」
青い髪、浅黒い肌、切れ長の琥珀の目。
そんな彼の手を私は取ってしまった。
それが、私とやつの出会い。
まばゆい光が私の視界を奪って、私は意識が遠のいていった。
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