眉毛で人生が変わった話

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

眉毛で人生が変わった話

 女の子にモテたい!!  健全な男子高校生なら、誰でも思うことだろう?  オレは彼女いない歴=年齢。  喉から手が出るほどに、かわいい彼女が欲しい!!    そういうわけで、モテる男子の極意なるものを日夜研究していると、『眉毛で人生が変わる!』というネット記事を見つけた。 【ダサいヤツは、眉毛がボサボサ。  モテるヤツは、眉毛が整っている。  ――スバリ! モテたければ、まずは眉を整えよ!!】 「これだぁぁぁーーーっ!」  オレは膝を叩くと、早速眉毛を整えてみた。 「ん? 左右違うな……。右が薄い。左をもっと切って……。んんっ?」  数分後。オレはハサミを落として、絶叫した。 「切りすぎたぁぁぁーー!」  敗因は明白だ。眉毛バサミがないからといって、普通のハサミで切ったせいだ。  面倒くさがらずにコンビニに買いに行けば良かったと後悔しても、もう遅い。  ✢✢✢  翌日、二つ下の妹が爆笑した。 「眉毛なし星人!! ひゃはははー! だめだぁ! 笑いすぎてお腹いたいーっ!」 「優しさのかけらもないお前に期待していないが、眉毛増毛剤もってる?」 「もってるわけないじゃん。ってか、増毛剤使っても一日でフサフサにはならんわ。お兄ってバカちんだね!」  くっそー! デリカシーのないヤツめ。お前の体には鬼の血が流れているのか!!  騒いでいると、妹の友達の唯奈(ゆいな)が遊びに来た。  唯奈はオレの顔を見て固まったが、親切にも、アイブロウで眉毛を描き加えられることを教えてくれた。 「アイブロウ? 何それ? コンビニで売ってる?」 「私もってます。私がお兄さんの眉毛を直してもいいですか?」 「おうっ! サンキュー!!」  こうしてオレは唯奈に眉毛を描いてもらうことになった。  妹はお菓子を買いに出掛け、居間には俺と唯奈の二人きり。  黙ったままなのも気まずいので、ネット記事を読んで眉毛を整えようとしたことを、正直に話す。 「モテるために、眉毛を……」 「そう。真剣にモテたいんだよ! かわいくて優しくて、一緒にいて楽しい彼女が欲しいんだっ!!」 「その……。一人からモテるだけじゃ、ダメですか……」 「その一人がどこにいるんだよ」 「……お兄さんの目の前に……」 「えぇっ⁉」  二人っきりの部屋に、妙な沈黙がおりる。  妹の友達はよく喋るうるさい女が多いため、唯奈の影は薄い。妹の話の聞き役、そんなイメージしかなかった。おまけに唯奈は小柄なうえに、うつむきがち。はっきりと顔を見たことがなかった。  オレも唯奈も、ソファーに座って顔を近づけている。  眉毛を整えるからこそ、可能になった距離感。  初めてこんなにも間近で、唯奈を見た。  おとなしい顔立ちだけれど、それがかえって好ましい。優しい垂れ目も、小さめな唇も、ふっくらとした輪郭も、癖のない黒髪も、華奢な肩も、ほのかに盛り上がっている胸も、儚げな声も、柔らかな笑顔も、なにもかもが……かわいい。 「おわぁぁぁーーーーーっ!!」  ドキドキする心臓に耐えきれずに、胸を押さえてソファーに倒れ込んだ。 「私からモテても迷惑ですよね。かわいくないし、楽しくも……」 「違う違う違うっ!! いや、あの、その、唯奈ちゃんはかわいいです!! 唯奈ちゃんみたいな子からモテるんなら、百人からモテるよりもずっといいっ!!」  こうしてオレに念願の彼女ができた。ちなみに唯奈ちゃんと過ごす毎日は、めちゃくちゃに楽しくて幸せだ。  眉毛で人生が変わるというのは、本当だったのだ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!