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眉毛で人生が変わった話
女の子にモテたい!!
健全な男子高校生なら、誰でも思うことだろう?
オレは彼女いない歴=年齢。
喉から手が出るほどに、かわいい彼女が欲しい!!
そういうわけで、モテる男子の極意なるものを日夜研究していると、『眉毛で人生が変わる!』というネット記事を見つけた。
【ダサいヤツは、眉毛がボサボサ。
モテるヤツは、眉毛が整っている。
――スバリ! モテたければ、まずは眉を整えよ!!】
「これだぁぁぁーーーっ!」
オレは膝を叩くと、早速眉毛を整えてみた。
「ん? 左右違うな……。右が薄い。左をもっと切って……。んんっ?」
数分後。オレはハサミを落として、絶叫した。
「切りすぎたぁぁぁーー!」
敗因は明白だ。眉毛バサミがないからといって、普通のハサミで切ったせいだ。
面倒くさがらずにコンビニに買いに行けば良かったと後悔しても、もう遅い。
✢✢✢
翌日、二つ下の妹が爆笑した。
「眉毛なし星人!! ひゃはははー! だめだぁ! 笑いすぎてお腹いたいーっ!」
「優しさのかけらもないお前に期待していないが、眉毛増毛剤もってる?」
「もってるわけないじゃん。ってか、増毛剤使っても一日でフサフサにはならんわ。お兄ってバカちんだね!」
くっそー! デリカシーのないヤツめ。お前の体には鬼の血が流れているのか!!
騒いでいると、妹の友達の唯奈が遊びに来た。
唯奈はオレの顔を見て固まったが、親切にも、アイブロウで眉毛を描き加えられることを教えてくれた。
「アイブロウ? 何それ? コンビニで売ってる?」
「私もってます。私がお兄さんの眉毛を直してもいいですか?」
「おうっ! サンキュー!!」
こうしてオレは唯奈に眉毛を描いてもらうことになった。
妹はお菓子を買いに出掛け、居間には俺と唯奈の二人きり。
黙ったままなのも気まずいので、ネット記事を読んで眉毛を整えようとしたことを、正直に話す。
「モテるために、眉毛を……」
「そう。真剣にモテたいんだよ! かわいくて優しくて、一緒にいて楽しい彼女が欲しいんだっ!!」
「その……。一人からモテるだけじゃ、ダメですか……」
「その一人がどこにいるんだよ」
「……お兄さんの目の前に……」
「えぇっ⁉」
二人っきりの部屋に、妙な沈黙がおりる。
妹の友達はよく喋るうるさい女が多いため、唯奈の影は薄い。妹の話の聞き役、そんなイメージしかなかった。おまけに唯奈は小柄なうえに、うつむきがち。はっきりと顔を見たことがなかった。
オレも唯奈も、ソファーに座って顔を近づけている。
眉毛を整えるからこそ、可能になった距離感。
初めてこんなにも間近で、唯奈を見た。
おとなしい顔立ちだけれど、それがかえって好ましい。優しい垂れ目も、小さめな唇も、ふっくらとした輪郭も、癖のない黒髪も、華奢な肩も、ほのかに盛り上がっている胸も、儚げな声も、柔らかな笑顔も、なにもかもが……かわいい。
「おわぁぁぁーーーーーっ!!」
ドキドキする心臓に耐えきれずに、胸を押さえてソファーに倒れ込んだ。
「私からモテても迷惑ですよね。かわいくないし、楽しくも……」
「違う違う違うっ!! いや、あの、その、唯奈ちゃんはかわいいです!! 唯奈ちゃんみたいな子からモテるんなら、百人からモテるよりもずっといいっ!!」
こうしてオレに念願の彼女ができた。ちなみに唯奈ちゃんと過ごす毎日は、めちゃくちゃに楽しくて幸せだ。
眉毛で人生が変わるというのは、本当だったのだ。
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