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洋治が妻の恵美と別居するようになって、三年ほどが経とうとしていた。
ある休日の朝、妻が「私、一人になりたい」と言って、いつの間にかまとめたらしい荷物を抱えて出ていってしまった。
あまりに突然なことで、なぜそうなったのか、洋治には理由がよくわからなかった。
これといって彼女を怒らせるような問題を起こしたわけでもないし、過去に遡っても思い当たるほどの大ゲンカをしたこともなかった。でも、仕事をしながら出産、育児もこなし、何だか忙しそうに毎朝毎晩バタバタと動き回る彼女を見ながら、洋治は彼女の領域を侵すのがこわくて、自分のペースで家での時間を過ごすことに集中していたようなところがあった。
もう少し、彼女と重なる場所に自分の身の置き所を見つけようとすればよかったのかもしれない。
しかし、心の内を表現するのが得意でないと不器用を自認している洋治には、活動的な姿に眩しささえ感じる恵美を、後ろから見守ることしかできなかった。
そんな洋治が、何気なく目にしたチラシの文面。
そういえば、結婚したばかりの頃、いつか二人で、どこに行くかわからない旅をしてみようか、と話したことがあったと思い出した。
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