1 事故

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 今はまだ、目先の仕事や生活を精一杯頑張って、将来は子供もつくって、家も持ちたい。だから、そんな生活に一息つけるゆとりができたら、行くあてのない気ままな旅を、時間も気にすることなく二人でするのも悪くないかもね、などと語り合ったことがあった。  それは、あわただしい毎日を一時忘れたいという願望が見せた、将来ゆとりをもって生きる姿を思い描いたささやかな夢だったかもしれない。  あの当時とは少し状況が違ってしまったが、子供も大きくなり、マイホームも手に入れ、そして仕事に追われることもなくなった今、そんな旅の案内に目をとめたのも何かの縁のような気がした。  今は別居しているが、洋治にとって恵美の存在は、昔も今も最愛無二の妻であることに変わりはなかった。そして、さしたる根拠はなかったもの、いつか再び同じ屋根の下で暮らす日が来ると信じる自分がいた。  洋治は、旅行会社の窓口に行って、もう少し詳しい話を聞いてみようと思い立った。
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