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しばらくすると、船は出航した。
自由にしていいとは言われたものの、もしかしてとてつもない拷問などの恐怖が待ち受けていて、それを前にした最後のもてなしではないかという疑心暗鬼が強く頭をもたげ、洋治はお酒や食べ物に手をつける気になれず、所在なくベッドに横になってみた。しかし、先行きへの不安からとても眠ることもできなかった。
そのまま緊張と不安に包まれた長い時間が過ぎ、三度目の用足しを室内にあるトイレで済ませて、それでも疲れていつの間にか寝込んだらしいと目覚めたときには、窓の外に薄っすらと夜明けの光が広がりつつあった。
そして間もなく、船は港に到着した。
部屋の扉が開けられ、どうぞと言われて船を降りると、そこには高いものでもせいぜい五~六階建てくらいではあるがビルも幾つかあるのが見え、車も行き来しているまとまりのある町があった。遠くには少し高い山もあって、その中腹にビルらしい建物も小さく見える。
周りには、他にも洋治と同じように連れてこられて、一緒に下船した男女の姿がある。
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