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死神代理と汚部屋のお掃除 分別など編 19
まだ片付けの済んでいない汚部屋を、ぐるぐる忙しなく回る。ゴミとゴミの隙間を見つけては、一ヶ所一ヶ所を確認する。
「パポちゃん、どこ行っちゃたの…」
いくら部屋の中を探しても、モフモフの白い姿がワタシの目の前に現れるはずがなかった。
パポちゃんはこの空間から急に居なくなったのだから。
意味がないと分かっていても、パポちゃんの姿を求めて雑然とした家の中の歩ける所を隈無く歩き回る。
クローゼットの扉の取っ手に手をかけた時、背後で物音がした。
喜色満面で振り返れば、そこにいたのは黒く艶光した大きなゴキブリのみ。
「ワタシが探してるのは白毛だ!!」
怒り半分、八つ当たり半分でトング2代目を持った。
ゴキブリ退治に慣れていない一人暮らし初期に使っていたトングと違い、2代目はイラスト本めくり用である。
ポテトチップスやフライドポテトを食べながら鬼助先生や永遠先生のイラスト本を観賞する際、美しい絵に油がつかないようにページをめくるのに使っていた。
いまはゴキブリ退場用に使う。
ゴキブリの体をトングで掴むと、窓を開けてベランダに放り投げる。
「頑丈なデカさなんだから、ワタシん家でなく外で逞しく生きてけ!!」
ピシャリと窓を閉め部屋を見渡すと、深いため息をついた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「パポちゃん…」
突然ワタシの所に来て、突然去ってしまった。戻ってきてくれないだろうか。いや、戻ってきてほしい。
あんな形のまま、お別れしたくないよ。部屋をキレイにできないまま逝くより、こっちの方がもっと心残りだよ。
「ーまた泣かせちゃったし」
ワタシは大好きな人を泣かせてばかりだ。頼ちゃんも歩くんも泣かせた、パポちゃんのことも。
明後日に寿命を迎えて、パポちゃんと会えないまま終わってしまうの?
生まれ変わったとしても、次の生でもワタシは過去の傷に囚われ続けるのか。その時のワタシのものじゃない前世のワタシの闇に引きずられて。
このまま行けば、その筋書きを辿るだろう。パポちゃんが望まなかった生の道を、次のワタシは歩まざるを得なくなる。
そうなってほしくないと、パポちゃんは必死にワタシを助けようとしてくれたのに。
パポちゃんは…何で昨日に出会ったばかりの人間のために、そこまで想ってくれるのだろう。心を痛めてくれるのだろう。
聞けば気持ちが沈むだけのワタシの昔の話を全部聞いてくれて、ワタシのために一生懸命考えてくれて怒って…涙を流してくれて…。
パポちゃんは、ワタシのことが大好きだから。
ーワタシは、まだパポちゃんに何も返していない。
ワタシだってパポちゃんのことが大好きだ。色々してくれたパポちゃんに、ワタシも返したいと思う。
出来ることなら、どんなことだって。
パポちゃんが戻ってきてくれるのなら、過去にもう囚われない。昔にあったことワタシがしたこと、辛くても悔いの気持ちが消せなくても前の方だけ見る。
昔のことは、今更どうにもならないって認めるよ。認められなくて、本当は過去に縛られることで足掻いてた。
でも、止める。どうにもならないって認めて、いまやるべきことをちゃんとするよ。パポちゃんに応えることだけに集中するよ。
だから、お願いパポちゃん。
「仏様、神様っ。誰でも良い、一瞬だけでも…。もう一度だけパポちゃんに会わせて下さい!!」
そう叫ぶやいなや、天井に黒い穴が開いた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「パポ…ちゃん?」
もしかして、戻ってきてくれた?
「呼んだねー。呼んだから来たよぅ」
期待に胸を弾ませたのに空間に開いた黒い穴から出てきたのは、ダミ声のする口が長く突き出た爬虫類の顔だった。
「ゴキブリの次はワニかあ!!」
「ワニぃ!!ボク龍なのに、ワニぃ」
ワタシが間違ったそうで、憤慨したワニ顔の龍に荒い鼻息をかけられた。
パポちゃん以外にも龍が出るわ、この部屋の空間はどうなってるの。
「ワニ呼ばわりしてすみませんけど、ワタシが呼んだのはパポちゃんか神様か仏様ですっ」
「だから来たんじゃないか、ボク龍"神"だから」
「パポ様連れて」
龍神の発言の後、穴の大きさが広がりワニ顔を滑り台にして白毛の小さな体が降りてきた。
「パポちゃん!!」
笑顔一杯に両手を広げて落ちてくる小さな体を、ワタシはしっかりと抱きとめた。
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