11 アンバーがほしい

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11 アンバーがほしい

「狡い! 抜け駆けだ!!」  ヨセフ殿下が声をあげた。 「シュガーを欲しがってるのは君だけじゃないんだぞ!」 「彼女を名前でなくシュガーと呼んでいる時点で君は一歩出遅れているのだよ」 「くっ……! に愛を伝えたのはこっちが先だ!」  私は困惑しすぎて、慌てて席を立った。 「窯を見てきます!」 「アンバー! 大切な話だ、ここにいてくれ」 「焦げますので!!」  クリスティアン殿下はその一言で引いた。  けれど、静観していたフェリクス殿下が徐に立ち上がり、私に並んだ。 「え?」 「クリスティアン、私はアンバーの父親でもなければ後見人でもない。ましてや主でもない。彼女への求婚の許可を私に求めるのは筋違いだ」 「だったら……!」  色めき立つヨセフ殿下に、フェリクス殿下が一瞥をくれる。 「そもそも、アンバーに愛を伝えたのは君がいちばんではない」 「ええっ!?」 「私が形で示した」  フェリクス殿下の言葉を受けて絶句したのは、私だけではなかった。  フェリクス殿下の手は、この談話室と、小さな厨房を示している。  私は、そんな殿下の意図にはまったく気づかずに、喜んで粉塗れになっていたのだけれど……鼓動が高鳴り、息が弾み、私は胸を押さえて喘いだ。 「で、殿下……」  3人の殿下がいるところで、私はやっと、それだけ絞り出した。  クリスティアン殿下が真剣な面持ちで、小さく首を振った。 「不可抗力だ。アンバーはこの国の人間だ。君は有利すぎる」 「そうだよ! 独り占めなんて狡い!」  ヨセフ殿下が共同戦線をはろうと腰を上げた瞬間、フェリクス殿下が大きく肩を揺らし、言った。 「いいか。アンバーはケーキじゃないんだ。分け合う事はできない」  そして私の顔を覗き込み、熱い眼差しで囁いた。 「タルトが焦げる。行きたまえ」 「……は、い」  私の胸も、焦げそうだった。  唐突な愛の告白に戸惑いながらも、私の心は決まっていた。  それは、恋や愛と呼ぶにはまだ早すぎる、混ぜ合わせ始めたばかりのパン種のようなものだった。けれど確実に、甘く熱くふわふわの、明日の糧になる、命の源へと焼き上がることが約束された、美しいパン種だった。  タルトは焦げておらず、クグロフもじっくり火を通しているところだ。   「なぜアンバーが私の隣にいたのか、考えてくれ。友よ」  フェリクス殿下の切実な声が、かすかに届いた。  短い沈黙を挟みクリスティアン殿下が返した言葉は、私にとって、本当に意外なものだった。 「選ぶのはアンバーか」  3人の王子から求愛されて、私が相手を選ぶ?  そんなこと、ありえないのに。  けれど現実は、信じられない形で私を呑み込んだのだった。  そして……
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