10 ぽっちゃりの価値

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 社交界には疎いけれど、世の中には美しいと噂の実際美しい令嬢がたくさんいるということくらい、知っている。流行のドレスだって、私が着るとすればサイズを直してもらうところから始まるのだ。着ないので、必要ないけれど。 「君は食のなんたるかを心得ている。至高の逸品をつくりあげるために培った知識と経験そのものという誉れ高き体形だ。素晴らしい」 「小太りなんですよ?」  大真面目に言い募るフェリクス殿下に、つい言い返してしまった。  あまりに、ふしぎで。 「飲み食いした証」 「命の証」 「幸せの証」  かつてのわんぱく3剣士が、声を揃える。 「君は美味しいという言葉の意味を知っている。素晴らしいことじゃないか」 「そうだ。一緒に生きていくなら君のような、違いのわかるレディがいいに決まってる。アダン卿は屑だ」 「小太りと言って誰か君を責めたのか? 私たちも、かつてはだった」  ヨセフ殿下、クリスティアン殿下と続き、やはり最後はフェリクス殿下が締める。フェリクス殿下は両方のてのひらを内側に向けて、体の外側に丸みを帯びた輪郭を描いた。ぽっちゃりとした、輪郭を。 「……」  記憶が弾ける。  ジンジャークッキーやマジパンで象られた3人の王子様が丸々とした可愛らしい造形だったのは、モンソンの優しい表現ではなかったのだ。   「ソルトは甘い焼き菓子を禁じた。おかげで私たちは痩せ細り、今や宮廷の飾り物じみた若造になり果てた」 「……」  フェリクス殿下はモンティスを嫌っているようだけれど、彼が健康志向だったことは、認めざるを得ない。 「しかもこのほうが持て囃されるんだ。バカバカしい!」  ヨセフ殿下も力説している。   「美しさを売りにしている連中を否定はしないが、どうせ老いさらばえる。この世の幸せとは体を飾り立てることではなく、誰と飲み食いするかだ」  誰よりも美しいクリスティアン殿下が言った。  もう口を挟むのはよそうと、私は決めた。  直後、クリスティアン殿下の口から更に信じられない言葉が放たれた。 「そういうわけで、フェリクス。アンバーを連れて帰りたい。無論、妃として」
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