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思った通り、8つのレシピが残されていた。ただしこれまで見たものと同じように、不明瞭なスケッチと解読不可能な走り書きの形で。
でも、私たちの解読能力は鍛えられている。
「再現できるかしら」
砂糖の壺に向かって歩き出した私に続き、オットソンが卵、ブロリーンが小麦粉に向かう。
「ショウガが出て来た」
比較すれば少なめではあるセイボリーのレシピには、時おり現れるショウガ。効きすぎると辛いけれど、適切な量であれば美味しいアクセントになる。
「ショウガ、プラス、3。ショウガを3加える? やたらショウガに言及してるな。こんなに入れたら辛いだろ。モンソンらしくない」
「3年後じゃないかしら。ずっと前にジンジャークッキーのレシピはない? さっき殿下が仰っていたんだけど、おふたり異国の王子様が宮廷にいらっしゃった時期にモンソンが焼いた、3人を象ったジンジャークッキーが凄くよかったらしいの。そこから3年経った姿って意味かも」
「そういう事は早く言えよ」
「戻ってすぐよ」
「ジンジャークッキーね……」
バルタサールと話しながら砂糖を計り、辺りを見渡す。
「アーモンド粉はどこだっけ?」
スヴェンとテディがいっせいに指差したほうへ、私は向かった。
「なに作るんだ?」
「マジパン。あなたが見てたレシピ」
「ほぅ。あれマジパンか。でもアンバー、3年後の姿だとしたら、元のジンジャークッキーを先に焼かなきゃわからんだろ」
「……」
本当だ。
「作らなくても型を見ればわかる」
トルネルが打開策をあげてくれたので、私たちはまず木型の捜索をする事にした。
「卵割っちゃったよ」
「マフィンを焼いておいて」
オットソンに伝え、床に面した下の戸棚をガザガザとあさっていると、懐かしい思い出が閃いた。
もしかして……
「どうした? アンバー?」
すぐ隣にいたトールに答えるのを忘れ、私は予備の椅子を端から端まで眺めてみた。そこから、座面が収納を兼ねているものを見つけ、上の荷物を退けて、開いてみた。
甘い焼き菓子を封じたモンティスは、こんなところに殿下たちの可愛い木型を封印したのだ。敢えてモンソンらしくない場所に。
「あったわ」
目の前に掲げて、振り向いて、みんなに見せる。
「見事な彫刻だな。さすがはモンソン」
バルタサールが感嘆の声を洩らす。
私の胸は、知るはずのない懐かしさに熱くなっていた。私の中の優しい思い出と重なる、甘い香りが、スパイスを効かせて目頭を熱くさせる。
殿下に、まずはこれを、作ってさしあげたい。
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