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7 剥がれ落ちる嘘
「真琴さん、最近首が隠れるインナー着てることが多いですね? 暑いくらいなのに……もしかして体調が悪いとかですか? だったら無理しないで休んだ方が──。会えないのは寂しいですが、無理して欲しくないです」
そんな優しいことを言ってくれる響くんの言葉に胸がツキんと痛む。
これは噛み痕を隠すためのものだから。そんな優しいことを言ってもらう資格なんて僕にはない。
これ以上嘘はつきたくない。だけど本当のことも言えなくて、僕は無言で目を伏せた。
「真琴さん──? 本当にどこか具合が……」
「──っ!?」
それは突然のことだった。初めての感覚。響くんの指が僕の隠された頸に、服を隔ててはいたけれど触れた途端ぶわりと広がる僕のフェロモン。
僕はポンコツのはずなのに──どうして?
身体が熱く、奥の方からじわりとなにかが溢れる──。それは話に聞くヒートそのものだった。あんなに希ったものだったけれど──。
「はぁ……はぁ……っ」
ここは教室で、放課後とは言えまだ響くん以外のαも数名残っていた。みんな同様に鼻と口を押さえている。その様子に驚き目を見開く響くん。
だってそりゃそうだ。番ったΩのフェロモンはヒート時の強烈なものであっても本来番以外の他のαに感じ取れるはずがないのだから。
響くんはハイネックをめくり頸を確認した。
響くんは自分がつけたはずの噛み痕がなくなっているのを見てなにを思っただろうか……。
頸に触れる大好きな人の僅かな刺激に「ひぁ……うぅん……っ」とあられもない声が漏れた。
僕は言い訳をしたいのに意味をなす言葉なんてもう言えなくて、初めてのヒートに朦朧としながらも大好きな人の腕の中にいることに幸せを感じていた。
けれど、最後に少しだけ残った理性が、ダメだと告げた。
この人が愛する人は僕じゃない。だからダメなのだ、と。
今度こそ間違えてはいけない。
僕は響くんの腕の中から逃れ、すぐ傍にいたΩである如月くんにすべてを任せるように、その腕の中に身を委ねた──。
如月くん、響くんを返すね……。
「ど……して──?」
薄れゆく意識の中、響くんの絶望にも似た、そんな声を聞いた気がした────。
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