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3 優しさは罪
僕たちがああゆうことになってますます甘くなった山野くんだけど、さすがに如月くんがいるときは少しだけ気まずそうにしていた。
やっぱり、と思う。あのとき山野くんは僕に『俺の番』と言ったけれど、始まりが始まりだっただけに噛んでしまった罪悪感から仕方なくそう言っているのだと思う。
そう思うのに如月くんとのことは僕の勘違いで、お嬢さまの件も僕とのことの単なるきっかけづくりなんじゃないかとも思ってしまう。そのくらい山野くんが僕を見る目が熱を持っていて、声も態度も甘かった。
そんなことあり得ないのに。
「あの、よかったら『真琴さん』って、呼んでもいいですか? その、番ったわけだし……俺のことも『響』って呼んでくれたら──最高なんですが……」
最後の方はごにょごにょと言っていて、なにを言っていたのか聞き取れなかったけれど、山野くんが『番』という言葉を使う度に僕の心はチクリと痛んだ。山野くんから『番』という言葉は聞けても『好き』という言葉は一度も聞いたことがなかったからだ。
「僕はいいけど──」
チラリと如月くんを窺うと、怒ってはいないようでホッとする。だけど、もう充分如月くんには嫌な想いをさせているのだ。これ以上甘えてはいけないと思うのに──。
「響……くん、でもいいかな?」
「勿論です! 真琴さん♡」
フヒヒとよく分からない声が聞こえて、如月くんが肘で響くんの脇腹を小突いているのが見えた。
やっぱり面白くないよね……。ごめんね。
「えっと、僕そろそろ戻らないと」
「あ、はい。教室まで送ります」
「え? ううん。ひとりで大丈夫だよ。その……如月くんも毎回付き合うのも疲れちゃう、よね」
僕の言葉に如月くんも山の──響くんもキョトンとしていたけれど、すぐに言葉の意味が分かったのかバツの悪そうな顔をした。
いつも一緒にいて、あんなことがあった後もそれは変わらないのに、山野くんと如月くんにはその意識がないということなのだろう。それだけふたりが一緒にいるのが当たり前だということだ。
「えっと……だったら俺ひとりでも──」
「ううん! ホント僕ひとりで大丈夫だからっ」
両手を前に出し響くんを止めて、僕はそのまま「じゃあ、ね」って逃げるようにして教室へと走った。
遠くからこっそり見つめることしかできなかった響くんの近くにいられることも優しくされることも嬉しいと思うのに、それがひどく苦しいんだ。
そのぜんぶを受けるべきは如月くんだと思うから。
苦しくてたまらない──。
最初から言えばよかった。そうすれば今、こんなことにはなってなかったはずだ。嘘からはなにも生まれやしないのに。叶わない夢なんて見るべきじゃなかった。
滲む涙を袖口で乱暴に拭って、ぜんぶ、ぜんぶなかったことになればいいと願った。
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