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4 件のお嬢さま登場
僕は今、件のお嬢さまに放課後拉致されるみたいに高級車に乗せられて、隣りに座るお嬢さまの圧に少しだけ怯えていた。
響くんにも如月くんにも合わせる顔がなくて、こそこそとひとりで帰ろうとしていたところをお嬢さまに捕まった。
こうしてお嬢さまの存在を実感して、やっぱり僕の想像は自分に都合のいい想像でしかなかったのだと分かった。
お嬢さまの申し出を僕を理由にしてお断りすることは決まっていたけれど、僕がひとりで会うことになるとは思っていなかった。響くんの話では会う必要もないし、もし会うことになるとしても響くんとふたりで、ということだったからだ。
走る車の中、誰もが無言で、僕からもなにも言えないでいると、お嬢さまが小さく息を吐き、口を開いた。
「ねぇ、早すぎないかしら?」
「えっと……?」
お嬢さまの言葉の意味をはかりかねて、曖昧な答えを返した。
そんな僕の様子にため息を吐くお嬢さま。
「あなた──伊藤 真琴さん、といったかしら? 山野 響からはなにも聞いていらっしゃらないの?」
「響くんから──ですか?」
なんのことだろう……? お嬢さまが響くんに夢中だという話は聞いているけれど、他になにかあるのだろうか……。
「こんなに早く番ってもらっては困るのよ」
「え……」
「だって私はまだ立花とのことなにも進んでいないのよ? 話が違うんじゃなくて?」
「立花、さん……ですか?」
「あぁもう……本当になにも聞いていらっしゃらないのね。私、この立花と恋仲でしてよ。ですが立花はβだから……両親に認めてもらうためには色々と策略が必要ですの。だから幼馴染みの山野 響からの提案に飛びつきましたのに、自分だけうまくいったら後はどうでもいいということですの?」
ぷりぷりと怒りながらそんなことを言うお嬢さま。意味がまったく分からない。
「姫花さま、そのくらいになさいませ。伊藤さまも面食らっていらっしゃいますよ。そもそもそういうことは山野さまにおっしゃいませんと」
お嬢さまの付き人で恋仲? の今運転しているのが立花さんらしいのはふたりの様子を見ていて分かった。だけど、他のことは全部が初めて聞くことばかりで理解が追いつかないでいる。
響くんが嘘をついていた……ってこと? 一体なんのために?
響くんのことを信じたいのに信じられなくて、眉間にキュッと皺を寄せた。
お嬢さまが他にも色々と言っていたけれど、なにひとつ耳に入ってはこなかった。
あぁそうか。──すべては如月くんとの未来のため──? 僕は響くんの役に立ちたいと思っていたけれど……山野くんの話には最初からなにひとつ本当のことなんてなくて、僕はただ利用された──?
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