走馬灯からの景色

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 瞬きや息を吸う度に記憶のチャンネルが変わる。気づくと僕の隣には幼い姿をした彼女がいた。彼女は僕の肩に自分の頭を預けて、縮こまるような姿勢をとっている。 「昨日ね、お母さんが三匹の子豚を読んでくれたんだ。狼さんって死んじゃうんだね」そういってから、彼女は縋るような目で僕を見てくる。「ねえ、死んだらどうなっちゃうの」  膝を抱えて震えている彼女に、当時の僕はかける言葉が見つからなかった。死という出来事を真剣に考えるには僕は幼すぎたし、死という言葉の意味すら理解できていなかった。  僕は長い時間をかけた後、狼狽した末に大丈夫、という意味を込めて彼女の手を握った。うまく言葉にできない代わりに、気持ちを込めて彼女の手を握ったつもりだった。  彼女は驚いたように僕を見てから、安堵したかのような表情を作った。その表情はお世辞にいっても光り輝くような笑顔ではなかったけれど、彼女の気が晴れたようで僕はほっと胸をなでおろした。  おそらくこの時、僕が彼女に恋をしていると自覚した時だ。  同時に、彼女が初めて『死』について考えた時なのだろう。たぶん、小学校に入った頃だったと思う。
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