走馬灯からの景色

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 いつからか、彼女はあからさまに僕から距離を取るようになった。それはまるで彼女の記憶の中から僕という存在がすっぽり抜け落ちて、僕たちの間に致命的な距離感の齟齬が生まれてしまったみたいだった。その原因が分からず、僕はそれなりに長い期間頭を悩ませることになった。   でも結局、僕は彼女との仲を取り戻すような行動をすることはなかった。それは僕が頭のどこかで、僕と彼女はお互いが必要だと思いあっていると感じていたからだった。もっというのなら、生きていくうえで僕は彼女の事を切実に必要としていたし、彼女も僕の事を必要だと思っていてくれていると考えていた。    しかしそんなものは、僕の独りよがりの妄想に過ぎなかった。日が経つにつれて彼女との距離は一歩一歩着実に開いていった。孤立していく僕とは対照的に、彼女の周囲には人が集まるようになった。学校の生徒たちに日々囲まれて、高嶺の花になった彼女を僕は遠目から見つめることしかできなかった。  博愛主義を体現したかのような彼女は中学に入ってから、まるで使命でも受けているかのように周囲の人間と分け隔てなく接していた。やがて、彼女は学校の憧れの的のような存在になり彼女の人柄の良さに心酔し、崇拝するかのような生徒すら現れた。  その頃にはもう、僕の隣で膝を抱え震えていた彼女の面影はどこにもなかった。
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