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次の日の朝、何の変哲もない水曜日。
彼女は駅のホームに迫る電車に向かって飛び降りた。
遺書のようなものは見つからなかったらしいが、状況から鑑みて死因は自殺だという。
その次の日、彼女の両親が後を追うように自殺をした。
彼女を心の底から愛していた両親は彼女がいなくなったことに耐え切れなかったようだ。
さらに次の日、彼女といつも一緒にいた女の子の親友が死んだ。一番近くにいたのに、彼女の力になれなかったことがショックだったようだ。
以降、流れるように自殺者が多発した。自殺した人間はいずれも彼女と関係がある人間で、彼女に好意を寄せていた人間など、様々な人間が後を追うように自殺をしていった。
驚いたのは、彼女をいじめていた女子生徒達が自殺したことだ。彼女らは、自分たちの陰湿ないじめが彼女の自殺の原因だと勘違いをしたようだった。彼女を追って自殺していく人間を見るたびに襲い掛かるその罪悪感に耐え切れなくなり、三人揃って校舎から飛び降りた。
僕はそこでやっと気づき、確信した。
今、彼らを殺しているのは紛れもない彼女なのだということに。
彼女は明確な意思と殺意を持って彼らを自殺に追い込んでいる。
人一倍、死を恐れていた彼女が、みんなで横断歩道を渡ることを促すように。
今になって思う。人が死ぬことを避けられないと気づいたあの瞬間から、あらゆる人々に布石を打ち続けていたのだとしたら。
なぜ、彼女は僕にだけ冷たかったのか。
なぜ、僕にだけ『死』の布石を打ってくれなかったのか。
自分の人生を反芻させるような走馬灯は、時に気づけなかった真実を教えてくれる。
彼女の真意に気付いた瞬間、視界が開け、時間が動き出す。
迫りくる光源が僕の視界を照らし、目を焼いた。その光は世界の美しさそのものだと錯覚するほどに眩しく、夢のような世界にいた僕を現実に引き戻す。
死にたくないと思った。生きなければならないと思った。
走馬灯からの景色は僕の全てを美化してくれた。
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