走馬灯からの景色

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 絵画によくある作者が死んでから作品の価値が発掘されるように、彼女は死んでから殺人鬼としての頭角を現した。そのことを僕だけが知っている。  様々な顔を持っていた彼女は、様々な意味で周囲の人間を魅了し、時には罪悪感を植え付け、17年という短い人生であらゆる人々に『死』という布石を打ち続けることに自分の人生を費やした。  そんな彼女の人生が幸せだったかどうかは僕には分からない。  しかし少なくとも、彼女が死ぬ前日、笑顔を作っていたことは確かだ。    今思えば、僕たちの関係は幼馴染と言ってもよかったかもしれない。いや、今なら胸を張って言える。僕たちは幼馴染だったのだ。間違いなく親密な関係だったのだ。  次の瞬間には無配慮に変わるテレビのチャンネルのように、僕の頭の中は彼女との数少ない思い出を映し出した。  彼女の事を思い出すとき最初に出てくるのは、黒く艶のかかった長い髪の毛だった。風に揺れると髪の毛の一本一本がさらりと揺れて踊るように元気になびき、僕の近くに彼女が来ると、その長い髪の毛でいたずらするみたいに僕の肌を撫でた。  それらすべては釘で打ち付けたみたいに鮮明な記憶として僕の中に残っていて、その感触や匂いを昨日のことのように思い出すことができた。
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