43人が本棚に入れています
本棚に追加
するとすぐに、ぎゃっ、コウモリ! あっち行け! ヤベっ、トイレどこ!という男の慌てた声が天井裏から聞こえてきた。
「……おしっこ、近いのかぁ。大変だなぁ」
ヤダ、ここで漏らさないで! わかった! こっちから! とこんどはミカの声。わかったって、何が?
大騒ぎの天井を眺めていると、突然天井の板が一枚、ぼんっとすっぽ抜ける。その穴から人間の姿に戻ったすっぽんぽんのミカが、ぴょーんと飛び降りてきた。
「テオ! 泥棒さんにトイレ貸してあげて!」
「はあっ?! 泥棒に!?」
するとミカに続いて、黒ずくめの若い男が、シュタッと忍者のように着地する。
「すんません! お手洗いお借りしまっす!」
なぜかトイレの場所も把握しているらしく、一直線に飛び込んで行く。いったい何が起きているのだ。
「テオ、やっぱり305のオヤマダさんだった! 頻尿の人!」
すっぽんぽんのミカが俺にこっそり耳打ちをする。
「やっぱり、ってどういうこと?」
「この前コウモリ散歩してたらさ、あの人、泥棒の苦労を僕に打ち明けてきたんだよ」
「あらぁ、泥棒さんもやっちゃったねぇ。警察に通報しとく?」
「でもさぁ、うちらも住居不法侵入の血液泥棒だし、同業じゃない? 忍び込むのも盗むのも大変だよねぇ。その苦労、お察ししますっていうか」
なぜかこんなときに限って慈悲心を発揮させるミカに、謎の生物Tシャツをすっぽりかぶせる。
せっかくいいところだったのになぁ。泥棒さんを見送ったらまたすぐに脱がせよっと。
何度か水の流れる音がした後、スッキリとした顔をした泥棒さんが部屋に戻ってきた。
「……ええーと、ミイラ取りがミイラにトイレを借りるという、これまたなんともアレな話ですが……えっと、寛大なご対応、恩に着ます」
三人のあいだに気まずい空気が流れる。
「ど、ドロボーですよネ?」
「こ、コウモリですよネ?」
ミカと男の声がかぶった。
最初のコメントを投稿しよう!