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ベランダから見下ろしていた俺たちふたりに気づいたようで、メイちゃんがこちらに大きく手を振った。
「ミカちゃーん! テオくーん! ただいまー!」
「オカエリナサーイ! メイちゃん、またボクらとアソボーねー!」
ミカが流暢な日本語で山下さん親子に呼びかける。
ミカはどの国に行っても言葉の習得が早い。何をやらせても実務能力ゼロの代わりに、野生の勘のようなものがよく働く。文法書など読まずとも、耳で聞いただけでぱっと言葉を覚えていくので、こちらは大変助かっている。
「メイちゃんのママンも、マップから除外だね」
ミカがこそっと俺に耳打ちする。
「ああ、今日もクタクタのお疲れ様だ。貧血で仕事に行けなくなったら、山下さんちの家計が破綻する」
山下さん親子を見送り、ふたりで部屋の中に戻る。
いまから120年前、俺はヴァンパイアのミカとパリのモンマルトルで出会い、恋に落ち、自分もヴァンパイアになった。
周りに正体がばれないよう、短期間で住居を移しながら、流れ流れて流れまくり、ついに大陸の東の端の島国までたどり着いたのが一ヶ月前。
アルファ・ビルヂングという名の古めかしいマンションに、入居者募集の張り紙が貼ってあった。その年代物の煉瓦の壁とか、絡みついて離れない蔦とか、最初にふたりで暮らしていたモンマルトルのアパルトマンにどことなく雰囲気が似ていて、ここにしよう、とふたりで即決した。
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