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ミカの指差す方向に目をやると、茶髪の青年が近所の公園にたどり着いたところだった。大きく肩で息をしながら、ブランコに座わる。
続いてマンションの玄関口からもうひとり青年が飛び出してくる。ちょうど帰ってきた201の大久保さんと鉢合わせし、何やら慌てて会話を交わすと、公園の方へ全速力で走っていった。
「息を切らして、走れよ若者。恋心、それすなわち猛ダッシュなり」
ミカがとつぜん達観したような言葉を吐く。ときどき登場する320歳長老バージョン。
「あれ202の大学生カップルじゃん。どうした、喧嘩でもしたか?」
ふたりの成り行きを見守っていると、わらわらと部屋の中からギャラリーが湧いて出た。
「なになに? シュラバどこ? ボクも見たい!」
「あっ、誠二さんと奏斗さん? 大学生っていいわぁ、青春よねぇ〜」
カナト!と名前を呼ぶ声が、夜の住宅街に響いた。
「無事発見したぞ! どれどれ、何て言ってんだろ」
「じゃあボクが代わりに実況します。『スキ……セイジ』『カナト……』」
ミカは動物的に耳がいい。視力も嗅覚もいい。コウモリだから。
うちらが見守っているとはつゆ知らず、夜の公園でふたりが情熱的に抱き合った。
きゃぁあ〜〜ん♡と世田谷姉妹が黄色い声を出す。
「『セイジ、ダメ』『なんで?』『人が見てる』」
たしかに大勢見てます。続きは家でやりなさい。
ふたりが寄り添い合ってマンションの方に戻ってくる。部屋まであと少しだというのに、あろうことか玄関先でキスをはじめた。
ベランダから身を乗り出した世田谷姉妹が、リアルなラブシーンに身悶える。触発されたダーチャはショーくんに襲いかかる。オヤマダさんはふたたび白目。こちらも修羅場です。
「はぁ〜〜ドキドキしすぎて心臓が痛いわ。どうしよう美加ちゃん、心臓に穴が開いちゃったら」
「十和子ちゃん、私ももうダメ。こんどあのふたりに会ったら救急車呼んで」
まあ、楽しそうだからいいか。
腕の中の小さなミカをぎゅうっと抱きしめた。
「俺もキスしていい? ミカ」
「ダメ。人が見てる」
よし、宴がお開きになったら、ミカを連れてロマンチックな夜の海まで飛ぶことにしよう。
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