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放浪するピカチュウばな奈の巻
俺の知らないあいだに、ミカが406号室の柿沼さんという若者に憑依され、ヴァンパイアであることがバレてしまっていた。
周りに黙っていてもらうよう頭を下げに行こうと、とりあえず限定品の「ポケモン東京ばな奈」を片手に、406号室のピンポンを押した。
何度押しても誰も出てこない。どうしよう、とミカを顔を見合わせた。もしや柿沼さんは、また他の人外に憑依しているのだろうか。
すると突然、隣の407号室のドアが勢いよく開いた。
「おめえら、ピンポンピンポンうるせぇよ! 柿沼さんならとっくに引っ越したよ!」
ひーちゃんさんだ。何やらひどくイライラしている。
「…アララ。もうヒッコシちゃったんデスかぁ…。じゃあコレ、ヒーチャンさん食べマセンカ?」
ポケモン東京ばな奈を差し出すと、ひーちゃんさんは迷惑そうに顔をしかめた。
「俺はさっ、九千万が盗まれてポケモンどころじゃねぇの! ポケモンじゃなくて札束持ってこいよ!」
バンっ、と勢いよくドアが閉まる。
1億円の男が、1千万の男に暴落したらしい。それでもけっこう金持ちだが。
「……じゃあこれ、他の住人にプレゼントする?」
ミカが残念そうにピカチュウの菓子箱に目を落とす。せっかく東京駅の限定ショップまで買いに行ったのに、完全な無駄足だった。
ちなみに俺たちはヴァンパイアなので、いくらピカチュウに可愛くお願いされても食べてやれない。
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