放浪するピカチュウばな奈の巻

1/6
前へ
/37ページ
次へ

放浪するピカチュウばな奈の巻

 俺の知らないあいだに、ミカが406号室の柿沼さんという若者に憑依され、ヴァンパイアであることがバレてしまっていた。  周りに黙っていてもらうよう頭を下げに行こうと、とりあえず限定品の「ポケモン東京ばな奈」を片手に、406号室のピンポンを押した。  何度押しても誰も出てこない。どうしよう、とミカを顔を見合わせた。もしや柿沼さんは、また他の人外に憑依しているのだろうか。  すると突然、隣の407号室のドアが勢いよく開いた。 「おめえら、ピンポンピンポンうるせぇよ! 柿沼さんならとっくに引っ越したよ!」  ひーちゃんさんだ。何やらひどくイライラしている。 「…アララ。もうヒッコシちゃったんデスかぁ…。じゃあコレ、ヒーチャンさん食べマセンカ?」  ポケモン東京ばな奈を差し出すと、ひーちゃんさんは迷惑そうに顔をしかめた。 「俺はさっ、九千万が盗まれてポケモンどころじゃねぇの! ポケモンじゃなくて札束持ってこいよ!」  バンっ、と勢いよくドアが閉まる。  1億円の男が、1千万の男に暴落したらしい。それでもけっこう金持ちだが。 「……じゃあこれ、他の住人にプレゼントする?」  ミカが残念そうにピカチュウの菓子箱に目を落とす。せっかく東京駅の限定ショップまで買いに行ったのに、完全な無駄足だった。  ちなみに俺たちはヴァンパイアなので、いくらピカチュウに可愛くお願いされても食べてやれない。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加