放浪するピカチュウばな奈の巻

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 大久保さんに挨拶をし、帰ろうとした瞬間に気づいた。  いい機会なので、ずっと気になっていたことを大久保さんに教えてもらおう。  自分の着ているTシャツに描かれた、テンション高めの謎の生物を指差した。 「スミマセン、コレ、ミライトワデスカ? ソメイティデスカ?」  すると大久保さんは、じいっとそのイラストに顔を近づけた。 「えーっと、これ……って書いてありますね。明らかにです」 「バッタ?」 「偽物ってことです。イミテーション。わかります?」  ――偽物! どうりで、メイドインチャイナのミッキーみたいな、狂気に満ちた表情をしてると思ったわ。これがジャパンの公式キャラクターなわけがないな。 「ナルホド! アリガトウゴザイマス。コレ、安売りで300円デシタ」  謎が解けてスッキリした。ありがとう大久保さん、また深夜にね。  ちなみに300円のばったもんTシャツの俺に対し、ミカはクリスチャン・ディオールのオーダースーツ(ウン十万)でビシっと決めている。これがミカの普段着。  ぼんぼん育ちのミカのために、ときどき仕立ててやっている。もともとフランス王室御用達の仕立て屋で寝巻き(寝巻きだぞ!?)を仕立てていたようなお坊ちゃまの中のお坊ちゃまだ。服ぐらいは好きに贅沢をさせてやりたい。  実際、ハイブランドの広告モデルみたいによく似合うし、俺の目の保養。  実はヴァンパイアって金稼いでもたいして使い道がないのだ。当然食費はかからないし、俺が空間移動できるから交通費も要らない。必要なのは俺の酒代タバコ代と仕事用品(ペンタブとノートパソコン)、あと家賃ぐらいか。移動生活が基本だから、大きな家具や家電も買えないし。  寒さ暑さも感じないからエアコンも使わないし、汗もかかないからシャワーもたいして浴びない。トイレも使わないし、服の洗濯も何かをこぼしたときくらい。  電気ガス水道に頼らないシンプルでエコロジーなヴァンパイア生活。血の問題がクリアできれば、案外生きていきやすい(死んでるけど)。
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