放浪するピカチュウばな奈の巻

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「……僕がどんな家の生まれかわかる?」 「たぶん、ルイ十四世とお知り合いかと」 「ウィ! 太陽王!」「ヴェルサイユ!」 「オスカル!」「アンドレ!」 「パンがなければ?」「ケーキを食べる!」 「フランス……ばんざい……!!」  よくわからないが通じ合っている。 「君の名は?」 「西、巧と申します。203に入居することになりまして」 「よろしく。僕はミカエル。ヴァンパイアだ」  ミカがキリリとした顔で右手を差し出す。タクミさんはその手を固く握った。  嘘だろ! また不用意にカミングアウトしたー!!  タクミさんがoh〜!シャンゼリゼ〜とギターを弾き鳴らした。それに合わせてミカと大根が身体を揺らして歌う。見上げると、207号室の老夫婦がベランダからニコニコと俺たちを眺めていた。 「あなた、まるで夜のシャンゼリゼを散歩しているみたいね」 「さんぜり? 三軒茶屋のあたりかい?」  この状況にツッコミを入れられるまともな人間が俺しかいないことが心細い。いますぐショーくんを呼びたい。  狂い咲く夜桜。ヴァンパイアと大根とスナフキンの美しいハーモニー。  幽玄でクレイジーな世田谷の夜。不思議の国ジャポン。  桜の木の上から降ってきたトラ猫がミカの頭に齧りついた。 「ぎゃああああ!! このドラ猫!!! にして多摩川に沈めてやる!!」  閑静な住宅街に響き渡る悲鳴。今夜のアルファ・ビルヂングも平常運転である。
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