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「テッパンはやっぱり、〈ダーチャ定食〉だよね!」
307号室。家主の祥くんのロシア人大型ワンコ彼氏、ダーチャだ。
若くてガタイがよく、血液量が豊富で常にフレッシュ。大らかで動じない性格なので、咬みついても絶対に起きない。特に祥くんとのセックスが激しかった夜はなおさらだ。さらにありがたいことには、ひとりで二食分いける。
旨い、安い、早いの三拍子が揃った、奇跡のヴァンパイア御用達定食屋である。
「でもさぁ、僕たち最近ダーチャ定食にお世話になりすぎじゃない? そろそろ他の食堂も開拓しないと」
「だけどダーチャってさ、わざわざ正体隠して忍び込まなくても、頼めばフツーに血を吸わせてくれそうじゃない? 『へー、君たちやっぱヴァンパイアだったんだー、いいよーどうぞ召し上がれー』って」
そう冗談を言った途端、ミカの顔から笑顔が消える。覗き込むと、珍しく小難しい顔をしていた。
「でも……ダーチャは僕の大事な友達なんだ」
ミカはダーチャとプライベートでも仲がいい。ときどき駅の向こうの日本語学校に仲良く一緒に通っている。
ミカの真っ青な瞳に、じわりと涙が浮かんだ。
「僕は……ダーチャの友情を利用して、僕らの食糧にしたくない!」
「――――――――!?!?!?」
それ、さっきまでダーチャを定食呼ばわりしていた奴が言うセリフですかねーー!?!?!
いちいち突っ込むのも馬鹿らしいので聞き流すことにした。
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