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失敗
私の指名客もお帰りになり、間違えて飲んだお酒で頭がぽわんぽわんする。
バックヤードに戻ると、恋の笑顔があった。
座り込んで、スマホを打ってた恋が立ち上がる。
「お疲れー、すみれ」
「お疲れ様、恋」
隣に座ると、恋が顔を覗き込んできた。
「ん?顔、赤くない?すみれ」
「え?なんでかな、さっきから顔、熱いし」
ぼんやり答えると、
「お酒飲んじゃったんじゃない?お水飲も、お水」
近くの小さなキッチンから水を汲み、グラスを渡してくれた。
「ありがと、恋」
「ううん。今日、なかなか接客、被らなかったもんね、大丈夫?」
「うん....」
グラスの水を飲んでいた。
「ちょっと、すみれ。どういうつもり?」
さっき、ヘルプで付いた席の先輩のキャストのお姉さんが険しい顔で腕を組み、見下ろしていた。
「どうって...何がですか?」
「私の指名客に名刺、渡すとか。美羽のお客様にも名刺、渡してたよね?」
「え?あ、はい...」
「指名替えさせる気?」
「えっ、まさか、そんなわけ」
焦ってる私に恋が割って入った。
「すみれも間違えて別のボックスでお酒飲んじゃってて、気が回らなかったってだけで。まどかさん達の指名客を取ろうとか考えてた訳じゃないですよ」
「恋じゃなくてすみれに聞いてんの!」
「わ、私、うっかりしていて...すみません、まどかさん」
「若いからって調子乗らないでよね!」
まどかさん、確か、24、て言ってたっけ...。
恋から年齢をこういう業界ではサバ読む、てのも当たり前、てのも教わった。
「今度やったら、店長にクビにして貰うから」
「まどかさん、ご指名です」
タイミング良く、望くんがバックヤードにやって来て、
「今行く」
と笑顔になったまどかさんは慌ててポーチで小さな鏡でメイク直しをし、ドレスを翻し、バックヤードから出て行った。
「気にしなくていいよ、すみれ。誰だって失敗はあるしさ。まどかさん達もすみれに嫉妬してるだけ」
「....嫉妬?」
「そっ。すみれがまだ18で若いからさ。私も19だし、そこそこ若いんだけどねー」
語尾で、恋は私を笑わせてくれた。
でも、怒鳴られた私は膝を抱え、俯いている。
「今日さ、終わったら、私んちおいでよ。すみれの寮の方が近いけど、気晴らしも大事!ね!?」
恋の優しい笑顔に頷いた。
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