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「思い出さなきゃよかった」
意識は小屋の中に戻る。涙が頬を伝う。
戦士達がもう流せない涙が。
グレイは慰めの言葉をかけなかった。
「治療はまだ終わってない。
あんたに染み込んだ水から、魔法陣に消された記憶を呼び戻す」
彼の手が私の両目を塞ぐ。
止める間もなく、再び意識が遠のく。
悲鳴は聞こえなかった。
代わりに、魔族と対峙する戦士の姿が次々と頭をよぎる。
「俺が食い止める、先に行け!」
領主の間で、仲間の盾となった剣士。
「彼女に帰るって約束したんだ!」
若者が弓を引き絞る。
「領主様の仇だ! 成敗してくれる!」
荒れ果てた庭で斧を構える老戦士。
聞き覚えがある声、見覚えのある姿。
私は目を見張る。これがあの、壮絶な最期を迎えた戦士たちか。
猛々しい姿に、悲哀の色はない。
「最後まで、諦めてなるものか!」
鎧に身を包んだ若者――あの金髪の戦士だ。まだ一滴の血も流れていない。
「うぉぉおお!!」
咆哮が響く。
彼らの姿に呼応し、私の胸に熱いものが広がっていく。
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