落ちてくるもの

2/2
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 城の地下室、そこに置かれた瓶の中に私はいる。  瓶は四体の彫像に囲まれている。獣の顔に人間の身体を持つ、魔族の彫像だ。  出口は鉄の扉一つ。鉄格子の(あいだ)から暗い階段が見える。その向こうから指の先程の陽の光が入ってきて、それでやっと昼夜の区別がつく。  城は魔族に占領されて長い。昔の記憶は残酷な死を見過ぎて塗り潰された。  ただ「ここにいるのは私のせいだ」と心に刻まれている。  日々、天井の魔法陣から瓶へと水滴が落ちる。胸まで()まると魔族が回収しに来る。   ガラスの瓶に映るのは白い髪と同色の生気(せいき)のない瞳。  ずっと何も口にしていない。眠くもないし疲れもない。  溜まった水に身体を沈めても死ねなかった。  やっと座れるくらいの瓶の底で、日毎夜毎(ひごとよごと)死の情景を見る。  悲鳴は耳を塞いでも入ってくる。  心がなくなればいいと、思うことすら(むな)しい。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!