運命の日

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 外は日が傾いていた。小屋の裏、細い道を登って丘の上に辿り着く。 「ほら」  彼が示した先、あまりの光景に圧倒された。  黄金の麦畑がぶわぁっ、と一面に広がっていた。風にさわさわと音を立てて波を打つ。   「あんたが嫌いな雨が、この麦畑を育てたんだ」  私はグレイを見上げた。視線がぶつかる。 「あんたは過去に(あやま)ちを犯した。だけど長い時間をかけて、他者の死にこれほど心を痛めるようになったじゃないか。  本当はもう、わかっているんだろ。人生は最後の一瞬だけで決まらない。  戦士達にはそれまでの人生があった。  そしてあんたには、未来がある」 「……どうして私を助けたの」  今度は答えてもらえる確信があった。  彼は遠くを見る。 「初めて見た時、救いたい、と思った。命の恩人だからってわけじゃない。閉じ込められて、俺みたいに逃げることもできないあんたの姿がずっと焼き付いて離れなかった。  助けたい、暗い顔に光が差すのを見たい、陽の下で笑う顔が見たい、そう思った。  だから魔法も医術も身に着けて、生きてきたんだ」  私は草地に降ろされた。  柔らかい草の感触。 「……私は魔族の力になって、皆を殺してしまった。許されるはずがない」 「あんた一人のせいじゃない。魔族と、あんたを助け出せなかった人々、時間がかかった俺のせいでもある。  身体の一部を失った者、心に傷を負った者……全員幸せになっていいと、俺は思うよ」  麦達がそよそよと光を散らして揺れる。 「なぁ、俺はあんたに生きてくれと頼むことはできる。でも意味がないんだ。あんたが自分から望まないと」  グレイが横に座り、私の細い手に触れた。  じんわりと温かさが伝わる。  想いが喉元までせり上がる。 「私……生きたい」  言ってしまった。 「いいのかしら」 「優しい戦士達が、許さないわけないさ。  誰より、俺が許すよ」  グレイが私を抱きしめる。うぁあ、と声をあげ私は号泣する。止まらない。彼の服をぎゅっとつかむ。  生きて、いいんだ。  生きたい。  
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