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俺は、俺でない声に操られるように万が一のことを考えて高架下から駅舎へと素早く移動した。まだズンズンの音は遠くから聞こえる程度で、肌感覚で分かるぐらい遠い。
俺は巨人をぼんやりではなく少しでもクオリティーを上げて撮影する為に、背負っていたリュックから折り畳んである自撮り棒を取り出した。
ドローンとは違って俺の手の届く範囲内しか撮れないが、それでも手で撮るよりは違った画角の撮影が出来る。周囲の安全が確実に確保出来る場合にしか使わないとっておきのアイテムだ。「シズマの安全が確保されていないだろ」と言う鋭いツッコミコメントは上手いと思った。
俺は自撮り棒を伸ばしてより近くからの撮影を試みる。俺は賭けに出る。撮影倍率を上げて、より巨人の姿を鮮明に撮影しようとする。しかし、画面は緊張のあまりブレまくっており仮に俺が成功したと思っても、フレームに収まっていない可能性もあった。
ズン……、ズン……
分かっていたはずだが、巨人が近付くと震度2相当の揺れもある。俺の自撮り棒を持つ手も震えているとあって、動画的には体感よりも大きな揺れを伴った映像になっていた。
――俺から言わせると意図しない反応もあった。
>危機感や臨場感を煽る映像としてリアリティのあるものになっている。素人でもここまで撮影出来るなら、賞の一つは取れるだろう。
ビギナーズラックと言うか、ミラクルと言っても過言ではない。俺が必死こいて撮影したワンシーンは映像の専門家からも称賛されていた。本当は詳細に映像から与えられる印象とか、技術的な部分にまで話が及んでいたが、俺はプロレベルの人たちからすればアマチュアも良いトコだ。俺が説明すると、かえって安っぽくなるからここでは割愛しておく――
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