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ズンッ! ズンッ! ……
音は確実に俺(駅舎)に迫っている。俺の鼓動の高鳴りに呼応するような一定のリズムを刻んだ。
「ハァ……ハァ……」
巨人に気付かれたら命の保証は無い。俺は声を抑えなければならない場面で、かつてない緊張からか吐息が漏れる。ホラー映画でよくある演出だと思ったが、実際に体感してみるとバカにしたような言い方をしているのが申し訳なくなった。声を出す以外に極度のストレスを和らげる手段か無かったのだから。
ズンッ! ズンッ! ……
巨人が駅舎のすぐそこ、俺からの直線距離で言えば約2メートル先を横切る。俺はこの時、息を止めて自分を殺した。通り過ぎて安全だと分かるまで一切の挙動を拒否していた。映像的には手で撮るより存在感のある巨人の姿を捉えていた。
ズンッ! ズンッ! ズンッ!
巨人は何を思ったか立ち止まる。足しか見えない。俺からすれば何をしているのか分からない。そこで俺は自撮り棒を手元に引き寄せ、スマホを手に持ち恐る恐る画面を足から舐めるように巨人の頭へと動かす。
髪の毛のような体毛はなく、ギョロっとした眼と連動するように顔が動く。画面からすれば左になる、後ろを確認しているようだ。口を真一文字に結び、聞き耳を立てているようにも見えた。
――この映像には海外からの興奮度が最高潮に達していた。反応コメントの一部を紹介しておく。
>俺はこの手の映像は映画じゃないけど、どこかフィクションが混じっていると思っている。だけど、この動画だけはハッキリ違うと自信を持って言える。
凄い。安っぽい言葉や余計な言葉は必要無いくらい。
>私は数多の映像を君たちが想像も出来ないほど漁ってきたが、これは文句無しに一番だと断言していい。今世紀中にこの映像を越えるのは難しいと思うね。
>ここからの流れは凄かった。日本では“神懸っている”と言うそうだね。俺もそう思うよ!
――
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